東京五輪開幕まで1カ月を切り、警視庁は繁華街(盛り場)での犯罪防止対策に力を入れている。コロナ禍で客足とともに違法スカウトの類も一見して減っているかのようにみえるが、少ない客を奪い合うように、悪質性を帯びた客引きも目立つようになっているとされる。摘発逃れのため「フリー」の客引きも横行。五輪の成功に向け、警視庁は法令を駆使するなどし、盛り場の「環境浄化」を模索している。
店を摘発できず
「お酒出しますよ」
「女の子と飲めます」
政府の緊急事態宣言が、まだ解除されていなかった今月18日、都内屈指の繁華街・池袋では、客引きが夕刻から道行く会社員らに手あたり次第に声をかけていた。
池袋では見慣れた、いつもの「光景」だが、声を掛けられた会社員が歩きづらそうにする姿もみられ、通行人を足止めするなど一歩間違えば違法になる悪質な行為も散見された。
「悪質な客引きや違法な深夜営業は後を絶たず、摘発しても、また、すぐ出てくる。いたちごっこのような状態になっている」。捜査幹部は説明する。
違法な客引きを行う店舗には、罰金や90日程度の営業停止が科せられる。だが池袋ばかりではなく、都内の盛り場では、「違法」な客引きが根絶される気配はない。
その理由の一つに挙げられるのが、いわゆる「法の隙間」だ。
店の従業員らに客引きを行わせ、「違法だ」と摘発されると、当然使用していた店がとがめられる。だが店に属さない「フリー」の客引きだと、直接の雇用関係はない。万一そのフリーが摘発されても、店側は「関係ない」と言い逃れでき、風営法に問うのは難しくなるという。
捜査幹部は「雇用関係がなければ、風営法での営業停止といったダメージを与えることができない」と話す。
コロナで悪質性高まる
新型コロナウイルスの感染拡大も暗い影を落とす。
繁華街では、客足が大きく減少。それに呼応するように、客引きやスカウトの摘発も減る。警視庁によると、令和元年の摘発は506人だったが、2年は399人にまで落ち込んだ。
しかし、この数字は、治安が改善に向かっているわけではないとされる。
フリーの客引きは、大半の従業員のように固定給ではなく、歩合制の場合が多い。「客を引けば、引くほど収入が増える」(捜査関係者)ため、少なくなった客を奪い合うように、強引な勧誘が目立つようになっているという。
警視庁によると、昨年1年間の客引きなどに関する苦情は、新橋地区で約300件、渋谷地区で約460件で、秋葉原地区では約1千件に達するという。
カギ握る改正条例
こうした状況に、都も打開策を模索する。今年4月には、「ぼったくり防止条例」を改正。直接の雇用関係がなくても、客引きから客を引き受けた店も摘発できる区域を拡大した。
捜査関係者は「これで都内のほぼ全ての盛り場で違法営業している店に営業停止の厳しい処分が科せられるようになった」と話す。
まもなく開幕を迎える東京五輪では、海外からの観客受け入れは断念され、「世界一安全な都市・東京」のアピールの場は、減りつつある。だが、無観客は避けられ、少なからず東京に人々が集う。大会成功には、繁華街の治安も大きなカギを握るとされる。
警視庁は今月22日、改正条例で拡大された銀座地区でフリーの客引きを用いていた経営者らの摘発に踏み切るなど、「浄化作戦」を強化している。
捜査幹部は「五輪で人流や店の営業形態も変わる可能性がある。悪質な手段で収益を上げようとする行為も出る恐れもあり、警戒が必要。五輪開催時に最も環境が良くなっている状態にしたい」と話した。
(根本和哉)
最終更新日:6/27(日)22:00 産経新聞