新型コロナウイルス禍の長期化による直撃を受けた業界で希望・早期退職の募集が加速している。目立つのは、外出自粛で販売が落ち込んだアパレル業界や、コロナ前までは人手不足だった観光、外食などのサービス業が募集に踏み切るケースだ。全体の募集人数は6月上旬時点ですでに1万人を超えており、昨年を上回るハイペースで推移している。
一層のリストラも
「事業構造の転換にもう一段アクセルを踏み込む必要がある」
こうした判断から3月、子会社の40歳以上を対象に約100人募集したのはアパレル大手ワールドだ。応募は125人に達した。同社は昨年にもグループ全体で募集したばかり。在宅勤務の広がりによるビジネス需要の冷え込みなどもあり、同社の令和3年3月期連結決算は171億円の最終赤字に転落している。
鉄道、観光を中心に落ち込み、3年3月期連結決算で過去最大となる601億円の最終赤字を記録した近鉄グループホールディングス(HD)は1月、近畿日本ツーリストなどを傘下に持つKNT―CTホールディングスで希望退職を募集し、従業員の約2割にあたる1376人が応じた。3月には、近鉄グループHDと近畿日本鉄道でも募集した。
ホテルや商業ビルなどの売却も進めているが、5月、小倉敏秀社長は「収入が回復しなければ、さらに踏み切ったことをしなくてはならない」と語り、一層のリストラ策の実施の可能性も示唆している。
休業で自ら退職
東京商工リサーチによると、今月3日時点で今年の上場企業の早期・希望退職者募集人数は1万225人。昨年に1万人を超えたのは3カ月以上遅い9月14日で昨年1年間の1万8635人を上回るペースだ。実施企業数もすでに50社に上り、昨年の6月3日時点の33社よりも多い。
業種別では、外出控えのあおりで販売が低迷するアパレル・繊維製品が8社で最多。コロナの感染拡大前は人手不足に困っていた業界も一転して希望退職の募集に動いた。過去10年間募集がなかった観光関連で4社、航空や鉄道を含む運送、外食も4社だった。
休業などで働けないため従業員側から離れる場合もある。和食店を全国展開する大阪市内の上場大手企業は「アルバイトも含め、行政の支援金を受けてもらうなどして雇用を維持している。ただ、店舗が閉鎖され、通勤できないなどの理由で、自ら退職してしまう人はいる」という。
人繰り苦しく雇用維持
人繰りが苦しい中堅、中小企業の悩みも深い。大阪市内を中心に喫茶店を展開する中小企業関係者は「時短営業などの影響で売り上げは2~3割減ったが、支出を徹底的に見直し、行政からの支援金などを活用することで、社員の雇用は維持している」と語る。
ただ、近畿財務局が5月に行った調査では、宿泊・飲食サービスで従業員数を「不足気味」と答えた企業より「過剰気味」とした方が多い。需要回復を見越して人員整理に踏み切れず、業績悪化との板挟みになる企業もあるという。
りそな総合研究所の荒木秀之主席研究員は「長引くコロナ禍で、人員整理に踏み込まざるを得ないほどダメージが蓄積されている」と指摘する。所得環境の悪化で消費回復が進まないことから、「(休業手当を補塡(ほてん)する)雇用調整助成金の特例措置を当面延長することが重要だ」と主張した。(岡本祐大、黒川信雄)
最終更新日:6/14(月)19:22 産経新聞