もろくも臭くもない 魚革に注目

地球から採取する資源をできるだけ減らし、廃棄物を最小限に抑える「循環型社会」へのシフトが叫ばれる昨今、食品加工の段階で廃棄される魚の皮を利用し、革製品や衣類などを作る技術が注目されている。新しい資源として注目される魚革(フィッシュレザー)製品の特徴や普及への課題などについて、独自ブランド「tototo」を立ち上げた野口朋寿氏に聞いた。(清談社 山田剛志)

● 「もろくて臭い」の 偏見を払拭

 財布や衣服、家具など、生活のさまざまな局面で手にする機会の多い革製品だが、そのほとんどは、牛や馬といった哺乳類、ワニやヘビといった爬虫(はちゅう)類の皮革を原料としている。

 ところが近年、皮革を得るためだけに動物を飼育・捕獲する行為が問題視されるようになっており、欧米を中心に倫理的な観点から動物性レザーの使用を控える企業も増えてきた。そんな中、代替物として関心を集めているのが、今まで捨てられていた魚の皮をなめして作るフィッシュレザーだ。

 富山県氷見市を拠点に、2019年からフィッシュレザー製品の製造、販売を行っている「tototo」では、キーホルダー、スマホケース、名刺入れ、財布の4種類の製品をラインアップ。売り上げは右肩上がりで、今年に入ってからの受注数は、スタート時と比較して5倍以上の伸びを見せているという。

● 普及への課題は 高すぎる製造コスト

 フィッシュレザーは環境に優しく、デザインも豊富。tototoは氷見市の鮮魚店と提携し、皮を無償で提供してもらう体制をとっており、素材調達にかかる費用はゼロだ。しかし、魚の種類や個体によって革の性質が異なるため、それぞれの特徴に合わせて加工法をアレンジする必要があり、他の革製品よりも製造にかかるコストが大きいという。

 「種類や個体差によって、デザインにバリエーションが生まれるのはフィッシュレザーの強みですが、その加工にはコストがかかるのです。また、他の動物性レザーに比べて1匹から取れる皮の量が少なく、バッグなどの面積が大きい製品を作る際には、皮を継ぎ合わせる必要があり、その分の手間と費用もかかります。このような経緯から、現状tototoで販売しているフィッシュレザー製品は、一般的な牛革製品の5倍から6倍ほどの価格設定となっています」

 他のレザー製品と比較して、フィッシュレザー製品が高コストであることの背景には、環境への配慮も関係しているという。

 「動物の皮はそのまま使うと腐敗していき、乾燥すると硬くなって柔軟性がなくなってしまいます。それを防ぐために、皮の繊維になめし剤を結合させる “なめす”作業が必要です。現在流通している革製品の多くは、なめす過程において安価で購入できる化学薬品のクロムを使用していますが、クロムは燃焼時に毒性の強い物質に変化するとされており、環境への悪影響が懸念されています。そのため、当社ではクロムを使わず、植物由来のタンニンという成分を使っています。クロムを使えばフィッシュレザー製品の値段を今より低く抑えることはできるのですが、それだと『自然環境に負荷をかけない』というフィッシュレザーの理念と相反することになってしまいます」

 他の革製品と比較して高コストであることがネックのフィッシュレザーだが、今後世間一般に広まっていくために、どのようなアプローチが考えられるのだろうか。

 「現在の技術では安価に提供することができないので、消費者に『ある程度高いお金を払ってでも購入したい』と思ってもらえるような価値づくりが大切です。そのためには、既存の革製品にはないフィッシュレザーならではの魅力を知ってもらうことが必要でしょう。今後は製品を実際に見て、触って、確かめてもらう機会を作っていきたいと思っています」

 持続可能な社会と親和性が高い素材として注目されているフィッシュレザー。家畜や希少動物から得られる既存の革製品に代わり、一般化する日は来るのだろうか。

最終更新日:6/10(木)20:31 ダイヤモンド・オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6395732

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