見た目は天然水なのにゼリー飲料――。そんな斬新な商品が駅の自販機で飛ぶように売れている。ネーミングやパッケージからは柔らかい印象を受けるが、実は自販機の膨大な販売データを利用した戦略的で硬派な商品。つい手を伸ばしたくなるのは、駅特有の課題を解決しているためだった。
JR東日本クロスステーション(旧JR東日本ウォータービジネス、東京・新宿)が2020年3月に発売した「フロムアクア 天然水ゼリー」(税込み130円)。天然水なのにゼリーという斬新さがSNS上で話題になり、緊急増産をしたヒット商品だ。21年3月に再販売されてもその勢いはとどまることを知らず、想定出荷量の180%と絶好調。近年、同社でここまで初動の良い商品は例がないという。
天然水ゼリーは、群馬・新潟県にまたがる谷川連峰の天然水を使用したラムネフレーバーのゼリー飲料。ミントがほのかに香り、さっぱりとした味にした。ペットボトルの振り方次第で、食感が変わるのが特徴。少量サイズのペットボトルを採用し、容量は280グラム。販路の9割がJR東日本管内の駅に設置された自販機だ。
天然水ゼリーを担当する同社ウォータービジネスカンパニー商品部の飯田早夜氏は、「商品のユニークさから初動が伸び、リピーターも多くついている状況です。特に10~20代の男性によく購入されています」と言う。
●駅特有の課題を解決した商品だった
ヒットの理由は主に2つある。一つは、駅の“すき間時間”に小腹を満たせること。電車を待つわずかな間に静かにさっと口に入れたい、というニーズに応えた。
もう一つは、リフレッシュ効果。駅のホームには冷房が無いため、夏場にムシムシとした経験はないだろうか。そんな不快感をミントの冷涼感が和らげてくれる。
「電車を待つ時間がある、ホームが暑い、といった駅特有の課題を解決する商品です。特殊な環境にある駅の自販機でなければ、ここまで売れていなかったでしょう」(飯田氏)
商品開発に生かしたのは、自販機の販売データだ。商品を現金や電子マネーで購入すると、購入した場所・商品名・時間のデータが取れる。さらに同社の運営する「アキュア メンバーズ」の会員であれば、年代・性別といった属性データまで入手可能だ。現在の会員数は約19万人。決して多くはないが、傾向値としては十分と考えているという。
20年4月~21年3月で、JR東日本の自販機での本数ベースの人気トップ3は、以下の商品だった。1位は「フロムアクア 530ミリリットル」、2位は「オロナミンC」(大塚製薬)、3位は「フロムアクア 280ミリリットル」。移動の途中にも飲みやすいミネラルウオーターはよく分かるが、2位のオロナミンCはやや意外に感じる。短い間に気分転換できる小型サイズの清涼飲料が駅ではウケるようだ。
ミネラルウオーター類の主な購入層は40~50代の男性。「フロムアクアは朝方に山があり、味のついたフレーバーウオーターは昼から夕方にかけて好調をキープ。夕方以降に“空白地帯”があり、そうした穴を目がけた商品開発をしました」(飯田氏)。自販機のデータを戦略的に使い、今回は「若年層が夕方以降に飲む商品」を目指した。
最終更新日:5/31(月)6:00 日経クロストレンド