政府による3度目の緊急事態宣言が発令されて、25日で1カ月がたった。対象地域が10都道府県に拡大し、切り花や和牛で再び価格下落が進むなど、農畜産物取引に影響が出ている。業務需要が苦戦する中、販売先の切り替えや作付けを抑制するなど、生産側の厳しい対応が続いている。
動きがあったのは切り花。「母の日」までカーネーションやバラなど洋花類を中心に相場を押し上げていたが、需要期を過ぎると急落した。3回目の緊急事態宣言で婚礼向けの販売にキャンセルが出て、イベント中止も広がる。菊類では葬儀の縮小で5月は平年(過去5年平均)を3割程度下回り、「品質に見合わない安い価格で取引されている」(都内市場卸)と課題がある。
和牛も堅調だった相場が下げる展開だ。東京食肉市場の和牛枝肉(A4、去勢)の加重平均価格を見ると、今年3、4月は2019年比で上回っていたが、5月は「宣言の対象地域が拡大し、飲食店向けの荷動きが悪化した」(市場関係者)ことで下落し、19年並みになった。サーロインなど高級部位を中心に在庫が増えている。
全国規模で一斉に宣言が発令された20年同時期に比べると影響は小幅だ。家庭用への仕向けや輸出が好調なことで一定に下支えしているが、「宣言が延長され不需要期の梅雨に重なると相場はさらに下げる」(同)との見方が広がる。
高級果実のメロン「アールス」は相場を維持しているが、「産地の出荷調整で、市場への入荷量が平年比で1、2割抑えられている」(せり人)背景がある。インバウンド(訪日外国人)や宴会需要は回復していない。
野菜は、業務需要の減退を家庭向けで支えきれない品目が目立つ。ダイコンとキャベツは、5月中旬の日農平均価格(各地区大手7卸のデータを集計)が、平年より2割以上安い。卸売会社は「業務筋が動かない分、増量すると下落幅が大きくなる」と明かす。
つま物も苦戦が続く。大葉は雨天で出荷が滞り、5月中旬の大手7卸販売量は平年より1割以上少ない。それでも価格は1割安。「悪天候で小売りも荷動きが鈍く在庫解消が難しい」と懸念する。
米は業務用を中心に販売ペースが鈍い。余剰感が強まり、価格はじりじり下げる。バターや脱脂粉乳など乳製品も業務需要の回復が遠のき、在庫が積み上がっている状況。「引き続き需要拡大に努めることが重要」(Jミルク)となっている。
新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急宣言が発令されるたび、農畜産物の相場や取引に影響が広がっている。人の動きが制限され、不況で節約志向も根強い。国内でワクチン接種も始まったが、感染が収束し経済が再び活発化するには時間がかかりそうだ。
新たな消費様式は定着する見込みで、農畜産物の売り先は堅調な家庭用への切り替えが有望となる。ただ、業務用中心の品目や高価格帯の商材ではその特性から難しく、苦戦を抜け出せていない。
生産現場への影響は複雑化し、経営規模や地域、品目によっては回復に遅れも見られる。いずれの生産者も農畜産物の安定供給を支える存在だ。国のコロナ支援策が、必要な人に適切に届いているか、長期的に見る必要がある。(宗和知克)
最終更新日:5/26(水)9:00 日本農業新聞