九州地方で圧倒的な知名度を誇るアイスクリーム「ブラックモンブラン」。商品を手掛ける竹下製菓は、佐賀県に拠点を持つ創業100年以上の老舗企業だ。最近はコロナ禍で立て続けに困難な経営状況に直面してきた。一方で、埼玉県に新たな拠点を設けて販路拡大を試みるなど、歴史ある商品を守りながら新たな柱を作るべく奮闘している。その中心人物である5代目社長に話を聞いた。(ダイヤモンド編集部 笠原里穂)
新型コロナウイルスの感染拡大は、社長に就任して以来、特に苦しい経験だったと竹下氏は振り返る。会社経営に与えた影響も大きかった。アイス事業は悪くなかったが、グループ全体の売り上げの約3分の1に当たる、土産菓子事業や関連会社で行うホテル事業が苦戦した。
竹下製菓の地元である佐賀県は、都市部に比べてコロナの感染者数が少ないとはいえ、都市部からの人の移動が制限されることで特に旅行や観光に関わる需要は大きな打撃を受ける。
「東京が動かなくなると、それに引きずられて影響を受けるところが大きいと痛感した」(竹下氏)
そうした中で竹下製菓は昨年10月、埼玉県のアイスメーカー「スカイフーズ」を買収した。竹下製菓が佐賀県外に製造拠点を設けるのは初めてのことだ。
先述の通り、一部の事業はコロナ禍で大きな打撃を受けていた。しかし20年4月に発令された緊急事態宣言の解除後、少しずつ需要が回復。そうした中で「(打撃を受けた事業の)止血をしつつ次の準備をしていかなければ」(竹下氏)と考えるようになり、買収を決断したという。
また、巣ごもり需要によって家で食べやすい箱入りの商品の売れ行きが伸びるなど、新たに見え始めていた変化もあった。買収したスカイフーズは一口アイスの製造を得意とする。こうした強みも、新商品の開発や製造に役立てられるのではないかと考えた。
新たな製造拠点を足掛かりとして、竹下製菓は関東での販売網を拡大していく方針だ。
九州では誰もが知る商品であるブラックモンブランだが、それ以外の地域では販売されている店舗は限られている。九州出身者から、「食べたいけれど自分の住むところでは売っていない」といった声も届いていたという。
そんな声に応えようとインターネット販売の環境も整えたが、保冷が必要なアイスという商品の性質上、どうしても発送料が高くなる。手頃な価格の商品であるため、そのメリットがネット販売では生かしきれないという課題があった。
そうした中で、販売する地域に近い場所に生産拠点があれば、販売店を増やすための営業活動はしやすい。商品の流通にかかるコストも抑えられる。
ただ、全国区で勝ち残っていくためには、大手メーカーが手掛ける人気商品がライバルになる。ブラックモンブランは、どのように消費者の関心を引き付けていくのか。
竹下氏は、「積み重ねてきた歴史」が強みになると考えている。50年超続いてきた商品だからこそ、九州で育った人たちにとっての思い出の味となった。この歴史は一朝一夕には作れない。
またブラックモンブランが九州地方で長年愛される商品となった背景には、「くじ付き」アイスだったことが大きいようだ。
「初めは、駄菓子屋などの店舗と消費者とのコミュニケーションツールとして、くじを付けたと聞いています。今でも『小さい頃、当たりくじを必死に探した』『こういうパッケージが当たりだといううわさがあった』など、お客さまにはくじに関するエピソードを語っていただくことが多いんです。味とともに思い出にも残ってくれているんだなと感じています」(竹下氏)
子どもの頃にブラックモンブランを食べていた九州出身の人たちの中には、地元を出て生活している人も多い。そうした九州出身者たちにまたブラックモンブランを手に取ってもらい、思い出とともに懐かしく楽しんでもらうことで、その家族や周りの人たちへとファンの輪が広がっていくことを期待している。
関東地方では、「九州のおなじみの味」であることを知らない人が大多数だ。そうした中で「九州出身の人たちにアンバサダーになってもらうこと」(竹下氏)が、何よりも強力な宣伝効果を生むと考えている。
最終更新日:5/21(金)17:00 ダイヤモンド・オンライン