創業300年を超える日本酒メーカーの大関。同社の看板商品「ワンカップ大関」は、日本酒をコップのまま販売した日本で初めての商品だ。発売当初、若者から高い支持を集めて50年を超えるロングセラー商品となったが、歴史とともに顧客の年齢層は上がっていった。若者のアルコール離れが叫ばれる今、老舗企業が目指す新たな勝ち方とは何か。奮闘する大関の今を取材した。(ダイヤモンド編集部 笠原里穂)
現在までにワンカップ大関の累計売上本数は44億本を突破した。しかし、国内の日本酒市場は縮小傾向が続く。国税庁の統計によれば、2019年度の清酒の出荷量はピーク時の3割を下回る。
ワンカップ大関については2003年、酒類販売に関する規制の改正によりコンビニやスーパーマーケットでも取り扱いを開始。こうした中で清酒市場全体に比べると減少スピードを抑えられていたが、それでも93年度をピークに減少し、今は年間5000万本ほどの売り上げだという。
また先述の通り、商品の歴史とともに顧客の年齢層が上がっている。今やメインの顧客層は60代以上。かつて発売当初のワンカップ大関が若者という新規層を開拓したように、いかに新たな顧客を獲得するかが状況を打破するカギとなる。
ただ、若者層の開拓は重要課題であるものの、日本酒のみならずアルコール離れも叫ばれる中で現在の20代に対してワンカップ大関を訴求するのは容易ではない。過去に若者向けのキャンペーン施策を行ったことはあるものの、期待した効果は得られなかったという。そこで現在は、初めから若年層を意識するのではなく、飲酒習慣がありワンカップ大関についても認知している30~40代に焦点を当ててプロモーションを行っている。
ワンカップ大関のラベルの裏側に30代から支持が高いイラストレーター、たなかみさき氏のイラストを掲載したり、キン肉マンやゴジラなどのキャラクターとコラボレーションしたりといった取り組みはその一例だ。今の“リアルな飲酒層”にまずはワンカップ大関を想起してもらい、メイン顧客層の年齢をゆるやかに下げていくことが現実的だと考えている。その上で、「お酒をたしなむ層が飲んでいる」というイメージを若年層にも波及させていくことが狙いだ。
このように今再び若年層からの支持を得る上でのハードルは高い。一方で明るい兆しが見えているのが、海外市場だ。
「海外ではカップ酒がスタイリッシュに見えるといった声も聞きます。米国では日本酒をショットでおしゃれに飲んでもらう提案を飲食店にしたり、海外専用ラベルの商品を発売したりといった取り組みをしています」(小寺氏)
昨年はコロナ禍で苦戦したものの、ワンカップ大関以外の商品も含めた海外での売り上げは右肩上がりに伸びていたという。海外では飲食店向け販売が主なため、売り上げ全体に占めるワンカップ大関の割合は10%未満と決して高くない。ただ、米国や台湾など、地域によってはワンカップ大関の支持が強い国もある。特に米国では売り上げが伸びているという。
海外の日本酒人気を追い風にワンカップ大関の魅力を打ち出していくことは、一つの有力な挽回策だといえる。
一方で再び国内市場に目を転じてみると、少子高齢化に加えて若者のアルコール離れが指摘されるなど、日本酒メーカーは厳しい戦いを強いられている。中でも日本酒市場は先述の通り、ピーク時と比較すると大きく縮小している。日本酒だけで売り上げを維持していくのは厳しいというのが、業界の本音だ。
こうした中で日本酒メーカーはどう生き残っていくべきなのか。これまで培ってきた酒造りの技術やノウハウを他領域にも応用させていくことが重要だと、大関は見据えている。
「とにかく何でもやってみる。清酒メーカーなので日本酒を作ることがメインですが、お酒は発酵食品の一つ。発酵にまつわるものは、日本酒に限らず研究開発に取り組んでいます。ここ数年は『総合食品メーカーを目指す』ことをテーマとして掲げています」(小寺氏)
現在は酒粕を利用した甘酒のほか、発酵技術を生かして鍋料理の素を開発し、発売している。
既存の領域にこだわらない姿勢は、大関が創業から300年の間ずっと大切にしてきた「魁(さきがけ)の精神」(小寺氏)とも通じる。日本酒の常識を覆したワンカップ大関は、この社風の中で生まれた。新たな常識を作り出せるか、老舗企業の挑戦は続いている。
◇この記事はダイヤモンド・オンラインとYahoo!ニュースによる共同企画記事です。
最終更新日:5/18(火)17:00 ダイヤモンド・オンライン