自己PRがない 就職戦線に異変

新型コロナ禍が2年目に入り、就職戦線に異変が広がっている。企業説明会や採用面接はオンライン方式が浸透し、就活の「ニューノーマル」は定着したかに見える。その一方で、コロナ流行で大学時代に留学や体育会活動などが制限された結果、十分な自己PRの材料を持たないまま就職活動に臨む学生が増加。採用担当者の新たな悩みの種となっている。(時事通信経済部・五十嵐誠)



▽PRポイントがない

 「このままコロナが収束しなければ、『ガクチカ』のない新卒学生ばかり採用しなければならなくなる」。ある大手総合商社の採用担当者はこんな懸念を抱く。ガクチカとは、企業のエントリーシートの設問や採用面接で新卒学生が決まって質問される「学生時代に頑張ったこと、力を入れたこと」の略語だ。学生にとっては、就職活動での大きなPRポイントとなる。

 21年卒の新卒学生は、就職活動をコロナが直撃したものの、感染が拡大する前に学生時代の大半を過ごすことができた世代だ。しかし22年卒の学生は、大学3年時からコロナ禍での不自由な学生生活を余儀なくされている。その結果、「留学をあきらめたり、体育会活動で最後に打ち込むはずだった大会が中止になったりした学生が、ガクチカなき就活に臨んでいる」(同)という。

 この傾向は、コロナ禍が長期化する中で学生時代の大半を過ごしてきた23年卒ではさらに強まることになる。採用面接などの限られた時間の中で、企業が学生の人となりを判断する重要な材料となってきた「ガクチカ」を表現できない就活生が増えることは、企業、学生双方にとって由々しき事態だ。

▽ミスマッチに拍車も

 コロナ禍で企業の採用活動は一変した。業績が悪化した旅行や運輸、小売りや外食業では新卒採用数を絞る企業が続出している。時事通信が主要100社を対象に今年3月に実施した22年春新卒の採用計画調査によると、採用を「増やす」と回答した企業は8社にとどまった。

 21年卒の採用過程では主要100社すべてが面接などでオンライン方式を採用した。オンラインには地方の学生がエントリーしやすいというメリットもあり、22年春採用でも全社が実施を計画する。「21年採用でノウハウが蓄積した」(NEC)、「オンライン面接で対応可能」(三井物産)など、企業側にも浸透が進んだ。

 一方で、学生との対面機会が減ることにより、ミスマッチが起こる恐れも強まっている。時事通信の調査でも「学生の興味・関心の喚起が困難になった」(マツダ)、「入社動機の形成が難しくなっている」(日本製紙)など、100社中53社が、コロナが採用活動に「影響する」と回答した。対面の機会が激減する中で、こうしたミスマッチ傾向にさらに拍車が掛かる危険性がある。

▽新卒一括採用に変化

 自社の戦力となりうる人材を限られた情報からいかに見極めて採用につなげるか。コロナ禍でますます難しくなるこの課題の解決策として、これまで日本企業で一般的だった新卒一括採用を見直す動きも出てきた。時事通信の調査では、新卒一括採用を「今後見直す」と回答した企業は16社。既に見直しを決めた企業も1社あり、通年採用などを実施中の8社を含めると、全体の4分の1に当たる25社で新卒一括採用の見直しが進んでいる。

 日本企業では新卒一括採用が長らく人材獲得の手法として定着してきた。人と組織に関する研究を行っているリクルートワークス研究所(東京)が2月に実施した調査によれば、「ほとんどの企業では採用数に占める新卒と中途の比率は変わっていない」(茂木洋之研究員)という。

 しかし、新卒一括方式は変えないと回答している企業にも「学生から得られる情報を増やし、人となりを見極めるため、インターンの実施規模を大幅に拡大した」(大手総合商社)といった動きが広がる。

 同研究所によると、コロナ禍の長期化で企業業績の先行き不透明感が強まる中、学生は就職先として中小企業を回避し、経営体力に余裕のある大手を選ぶ安全志向が強まっているという。就活の競争が激化する中、学生にとっては不自由なコロナ禍の学生生活でも、自分の強みをいかに磨けるかが重要となりそうだ。一方で企業側も、「ガクチカ」なき就活生の中から、光る人材を見つけ出すための試行錯誤が続く。

最終更新日:5/16(日)19:04 時事通信

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6393472

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