5月4日は「ラムネの日」である。1872年(明治5年)に東京の実業家がラムネの製造販売をはじめた日がその由来だ。以来、長きにわたって、日本人の喉を潤してきたラムネ。ところが、折からのコロナ禍によって、ともすれば日本から消えてしまいかねない状況になっている。
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脱退した4事業者とはべつに、協賛企業だったラムネの香料を取り扱うメーカーも、ラムネ協会を脱会した。コロナの巣ごもり需要を受け、家庭内消費量は拡大したといわれる炭酸飲料。にもかかわらずラムネ業界が大きな打撃を受けているのは、お祭りや花火大会、運動会といった機会に飲まれることが多いからだ。
「やはり『ハレの日』に飲まれる飲み物ですが、コロナでイベントは軒並みなくなりました。観光地も閑古鳥ですから『ご当地ラムネ』商品が売れず、また居酒屋さんに出荷しての“ラムネ割”需要も、お店の営業時間が規制されて、やっぱり売れません。当社では他ジャンルの飲料も取り扱っていますが、ラムネの落ち込みが一番大きいですね」
業界団体である日本清涼飲料連合会は「ラムネだけの統計はとっていません」というが、“おそらく当社が業者の平均的な売れ行きでは”という木村飲料の数字からは、ラムネ業界の苦境のほどがよく分かる。
2019年に131万9000本を出荷していた「ガラス瓶のラムネ」は、20年には85万5000本に(前年比-35%)。同じく19年に116万本を出荷していた「プラ容器のラムネ」は、20年には27万9000本になってしまった(前年比-76%)。今年21年は20年と同量の生産に留めているという。
「ガラス瓶のラムネは、賞味期限が長いので、まだ売れたんです。問題はプラ容器のほうです。軽くて取り扱いやすいのですが、ガラスと違って炭酸が抜けやすく、長くはもたない。昨年は夏に向けて造っていましたが、縁日などが中止になり、売りそびれてしまった。本来、100円から130円くらいで販売しているものを2本で100円として売ったりもしたのですが……多くが廃棄になってしまいました」
ラムネ業界ではこのほか、一度つかった瓶を洗って再利用する「リターナブル瓶」で販売している業者もある。
「当社ではリターナブルはやっていないのですが、瓶を製造する下請け業者さんに聞くと、そういう業者さんはさらに大変そうです。なにせラムネが売れないと瓶が返ってきませんから、詰めるに詰められず、廃棄の量が多いのです。業者さんの見立てでは、そうしたところでは売り上げが10分の1になったのでは、と言っていましたね」
もっとも、海外にラムネを輸出している木村飲料(株)では、こんな“珍現象”も――昨年は日本よりも海外に出荷した本数の方が多いというのだ。
「当社は海外40カ国にラムネを出荷しています。メインはアメリカです。近所にスーパーマーケットやコンビニエンスストアがある日本と違い、アメリカの都市部以外では、一度に買い溜めをし、自宅にストックしておく習慣があるのです。そういう地域では、貯蔵が効くガラス瓶のラムネは人気みたいです。日本が『ハレ』の日にラムネを飲むのに対し、アメリカでは『ケ』の日常にお飲み頂いているわけですね」
とはいえ、あくまで大きく売り上げを下げた日本と比べて海外が……という話である。そもそも海外に輸出をしているラムネ業者も、全国で5社程度。やはり日本国内の需要が復活しない限りは、危機を脱することはできないのだ。
「ラムネを製造している業者さんは小さいところが多く、昨年の夏の時点で厳しいという話は聞いていました。それが今年もコロナの悪影響が続いているとなれば、いよいよ心配です。瓶を再利用して飲むこともあるラムネは、今後のエコ社会で“再評価”される飲み物なのではと思っています。ぜひ、飲んで応援してほしいですね。水が美味しい地域のラムネは、とくにおすすめです」(先の清水氏)
デイリー新潮取材班
2021年5月4日 掲載
最終更新日:5/4(火)11:01 デイリー新潮