民泊の“宿泊者”は旅行客ではなく遺体だった-。大阪市内で民泊を行っている事業者が、一戸建て住宅で遺体を一時的に預かっていたことが発覚した。遺体安置所を利用できない葬儀業者から、有料で保管を請け負っていたとみられる。近隣住民は「気味が悪いからやめて」と抗議したが、遺体の一時預かりを規制する法律はなく、そうしたルールの不備が問題の背景にありそうだ。(小泉一敏、井上浩平)
大阪市住吉区の住宅街で昨年12月の日中、民泊施設として使われているはずの住宅の前に、黒いワンボックスカーが横付けされた。
一部始終を目撃した地元男性(78)は「ストレッチャーに乗せられ、布にくるまった遺体のようなものが中に運ばれていった。(状況から)家の人が亡くなったのかと普通は思うでしょう」。顔や体は見えなかったが、布の膨らみから察するに人間であることは明らかだった。
その後も、この住宅をめぐる「不幸」は頻発した。乗用車だけでなく、霊柩車(れいきゅうしゃ)からストレッチャーや棺(ひつぎ)が運び込まれる場面に複数の住民が遭遇。庭先などに、長いときは1~2日置かれることもあり、周囲にある住宅の2階から丸見えになっていたという。
一連の状況から「民泊が遺体置き場になっている」と確信した住民らが今年1月、民泊業者に抗議。ほどなくして施設の入り口にカーテン、庭先には屋根がそれぞれ設けられたが、搬入はその後も繰り返された。
■安価で請け負い?
区や地元関係者によると、この民泊は外国人男性が昨春ごろ、市の許可を受けて開業。大阪に押し寄せていたインバウンド(訪日外国人客)需要を狙ったとみられるが、新型コロナウイルス禍が直撃し、閑古鳥が鳴いていたという。
住民からの相談を受けて事実確認をした区に対し、外国人男性は1カ月に2、3体を搬入していることを認めた。区の担当者は「葬儀業者が既存の遺体安置所をすぐに用意できないケースなどで、男性が安価で保管を請け負っているようだ」と話す。
男性はコロナ禍で民泊の利用が伸び悩み、遺体の保管場所として使ったと説明し、「民泊施設は売却予定なので、売れるまで続けさせてほしい」と主張。住民には「近々(事業を)終了する」と約束し、現在は落ち着いているという。
市環境局によると、墓地埋葬法で遺体は死後24時間以内の火葬が禁じられているが、一時的な安置については規制がない。市の斎場霊園担当者は「法の網がかかっていないのが実情だ」と説明する。
■火葬場直送が増加
「今回のケースは、遺体の一時預かりを依頼した葬儀業者が悪質だといわざるを得ない」。大阪で葬儀業を営む50代の男性は憤る。
男性によると、亡くなる人数に対して火葬場が不足している東京などでは数日から1週間、火葬の順番待ちが発生しているが、大阪はそうした状況にないという。
大阪市の場合、市民斎場5カ所の1年間の稼働数は最大約3万9千人だが、実際は約3万4千人で推移。多くの葬儀業者は遺体を一時的に預かる安置所も確保しており、行き場を失って民泊に安置することはあり得ないという。
今回のような問題が起きた要因として、男性は「葬儀の簡素化」を挙げる。近年は病院で亡くなっても故人を自宅に迎えたり葬儀場を利用したりせず、火葬場に直送するケースが増加。葬儀場を経由すれば火葬まで滞りなく対応してもらえるが、直送した場合は火葬場の受け入れ態勢が整うまで、どこかで安置する必要が出てくる。遺体の安置に関するルールもなく、業者任せになっているのが実情という。
男性は「葬儀業界はアンタッチャブルなイメージもあるが、悪質な業者を排除し、消費者を守るためにも行政によるルール作りが必要だ」と訴える。
最終更新日:4/8(木)22:48 産経新聞