新型コロナウイルスの影響で、インバウンド(訪日外国人)が消えた京都の観光地。2度の緊急事態宣言以降、観光客の総数が減る中で、卒業旅行などで訪れる若者の姿が目立っている。土産物店や観光関係者も新たな「主役」に着目し、若年層向けの商品やサービスに力を入れ始めている。
3月下旬の午後、桜が咲き誇る京都市左京区の蹴上インクラインは、着物姿のカップルや女性グループなど20組以上の若者であふれた。写真映えする人気スポットで、レールに腰掛けて談笑したり、桜をバックに自撮りに興じたり。大阪市から友人2人と卒業旅行で訪れた大学4年の女子学生(22)は「コロナのこともあるので近場で、と思って京都にした」と声を弾ませた。
「通行人の7~8割が若者になっている印象」。そう話すのは、東山区の産寧坂でひょうたんや土産物を売る「瓢箪(ひょうたん)屋」7代目の大井秀民さん(68)。2度目の緊急事態宣言期間中も開店し、町を見続けてきた。京都府への宣言が解除された2月末以降、若者の観光客が徐々に増え始めたという。大井さんは「華やかな着物姿の人も多く、町が明るく見えるようになった」と喜ぶ。
市観光MICE推進室によると、若者観光客が増えたことを示すデータはないが、こうした傾向は把握しているという。考えられる要因として、「インバウンドが激減し、重症化のリスクを避けて外出を控えている高齢者も多い」と指摘する。海外旅行の需要減や卒業シーズンに合わせた学生旅行も重なったことで、「若者が目立つことになったのでは」と分析する。
そんな中、若者観光客を積極的に取り込もうとする動きも広がる。
嵯峨嵐山地域の日本茶専門店「茶三楽」(右京区)は、3月中旬にテークアウト専用のカウンターを新たに設け、ムース状の抹茶とミルクを使ったラテの販売を始めた。価格は600円(4月下旬まで)。従来の千~2千円台の喫茶メニューよりも安くして、消費額の少ない若者にもターゲットを広げた。「インスタ映え」に着目したのは、渡月橋上流で屋形船を運航する「嵐山通船」(同)。同時期に、洋菓子店と提携したプラン「スイーツ船」を開始。ケーキやマカロンを船上で食べながら遊覧できる。
商品の陳列を変更した店もある。土産物店「洛楽」(同)は、「かわいさ」と「低価格」を重視。外国人観光客向けの模造刀や京都の風景が描かれたマグネットの売り場を、数百~千円台のアクセサリーやコスメなどに置き換えた。売れ行きは好調だという。
それでも、洛楽の売り上げはコロナ禍以前を大きく下回る日が続く。細川政裕社長(59)は「今来ていただいているお客さんが手に取ってくれる商品を考えていく必要がある」と話す。「観光客数が回復するまではまだまだ時間がかかる。知恵をしぼって、その時まで耐えなければならない」と前を向く。
最終更新日:4/6(火)13:09 京都新聞