アメリカのワシントン首都圏交通局(WMATA)は、新型の地下鉄車両「8000系」256両の製造を日立製作所に発注すると3月17日に発表した。車両の納入は2024年から始まり、オプションとして最大800両の車両を追加製造する契約も含まれる。追加製造も含む契約金額は最大で22億ドル(約2400億円)。日立の鉄道事業にとっては、アメリカで過去最大の案件となる。
8000系は既存車両に比べ、ブレーキ時に生じるエネルギーから電気を回収する回生ブレーキや換気システムを改善したほか、リアルタイム情報などを表示するデジタル画面や防犯のための高精細カメラを備える。首都ワシントンを走行するという特性から厳格なサイバーセキュリティ対策も取り入れる。
WMATAが8000系の入札を行うと発表したのは2018年9月のことだ。1980年代に製造されたブレダ製の車両が導入から40年近く経っており、その置き換えが主目的となる。さらに2000年代に導入されたアルストム製の車両の置き換えも見据える。過去の車両納入実績のあるアルストム、そしてブレダを引き継いだ日立をはじめとして、各国の主要な鉄道メーカーが関心を示した。
7000系の評価が高い川重に対する期待も大きかったが、川重は結果として選考から外れた。入札に参加したかどうかについて、川重の担当者は「個別の案件についてはお話しできない」としている。
一方で、8000系の受注獲得に意欲を見せたのは中国の車両メーカー、中国中車である。中国の2大鉄道車両メーカーが合併して誕生した同社は、低価格を武器に世界各国での受注をじわじわと増やしてきた。受注の見返りとして、中国政府が発注国に便宜を図ることもある。
中国中車はアメリカ国内でじわじわと存在感を高めてきた。まず2014年に中国中車の前身メーカーがボストンの地下鉄車両284両の製造契約を獲得した。その後中国中車は2016年にシカゴの地下鉄、2017年にロサンゼルスの地下鉄の車両製造を受注している。
結果として、2019年12月に成立した国防権限法(アメリカの国防予算を決めるために議会が毎年通す法律)には、政府予算による中国製の鉄道車両やバスの購入を禁止する条項が盛り込まれた。これにより、WMATAが中国中車に発注する可能性は消えた。
そして今年3月、8000系の製造先に指名されたのが日立である。1980~2000年代のワシントン地下鉄を支えた車両を製造したブレダが日立の鉄道事業に組み込まれていることを考えれば、日立はWMATAにとってなじみ深いメーカーだったともいえる。
最終更新日:4/5(月)4:41 東洋経済オンライン