新田裕貴 山崎牧子 Sumeet Chatterjee
[東京 31日 ロイター] - 野村ホールディングスは昨年4月に就任した奥田健太郎グループCEO(最高経営責任者)のもと、海外事業の拡大に力を入れてきた。そこへ突如浮上した巨額損失の恐れ。アナリストや関係者からは、リスク管理体制の強化とともに、積極的に進めてきた米国戦略の見直しを迫られる可能性を指摘する声が出ている。
<リスク管理への懸念>
野村HDは29日朝、米国の子会社と取引先との間で約20億ドル(約2200億円)の損失が発生する恐れがあると発表した。米国株式市場ではこの前週末、米投資会社アルケゴス・キャピタル・マネジメントによるブロック取引が大きな話題になっていた。野村HDは詳細を明らかにしていないが、関係筋によると、アルケゴスの取引巻き戻しが損失に関連しているという。
海外事業、とりわけ米国事業を強化し、世界トップクラスの投資銀行の仲間入りを目指していた野村HDにとっては、厳しい問題がつきつけられている。
「コンプライアンス(法令順守)やリスク管理の担当部門はこの間に何をしていたのか。それが重要な問題だ」と、野村HD内の議論を知る関係者は言う。「海外事業をさらに拡大する計画があったが、この混乱が解決するまで計画は保留されそうだ」。
日本の金融庁関係者は、「今回の(アルケゴスへの)与信業務に関しては、野村は適切性を証明しなくてはならないし、それに不備があれば当局としても対応していくことになる」と話す。
野村HDの広報担当者はロイターの取材にコメントを控えた。
影響を受ける可能性があるのは野村HDだけではない。スイス金融大手のクレディ・スイスや三菱UFJ証券ホールディングスも米顧客との取引で損害が生じる恐れがあると発表。世界の投資銀行は計60億ドル以上を失う可能性があるとみられている。
海外事業を強化してきた野村HDにとっては特に痛手だ。
「(野村HDは)海外を強化して、(金融危機が起きたら)国内回帰をして、ということを繰り返しているというのが業界の認識」と、証券業界の関係者は言う。「世界のトップバンクになるには新興の顧客でシェアを上げながら、伝統的な客にくいこまないといけない。難しいことをやっているが、それをやらないと将来がない」。
奥田CEOが進めてきた海外事業の強化戦略はこれまで順調だった。2020年4月―12月期の連結決算は、海外事業の税前利益が1672億円となり、03年3月期以降で最高益を記録した。全社利益に占める海外比率は、前年同期の22%から42%にまで上昇した。
奥田CEOは昨年12月の機関投資家向けイベントで、海外事業について、「ここ数年間の継続した取り組みの結果、変化の激しいマーケットのもとでも、安定的に収益を上げることのできる体制へと変わってきている」と説明した。
巨額損失を巡る混乱は、しばらく収まりそうにない。
JPモルガンは30日、野村HDの投資判断を「ニュートラル」(中立)から「アンダーウェイト」(弱気)に引き下げた。「仮に単独の顧客で巨額の損失が計上されるのであれば、当社のリスク管理体制が、論点になるだろう」と、JPモルガンは顧客向けリポートで指摘した。
投資情報会社のモーニングスターは29日のリポートで、野村HDの戦略が大きく変わるとはみていないと、今回の損失が及ぼす影響に言及。一方で、「これまで積極的に取り組んできた分野で、リスクを取ることを控えようとするかもしれない」とした。
(新田裕貴、山崎牧子、Sumeet Chatterjee 取材協力:梅川崇 編集:久保信博)
最終更新日:3/31(水)17:06 ロイター