600人解雇 タクシー会社の今

2020年のタクシー業界において、最も大きく世間を騒がせたのはロイヤルリムジン社の600人解雇問題だろう。大量解雇という“劇薬”は当初英断と称されたが、時間を重ねるごとにほころびが目立ち、批判の声へと変わっていった。コロナ禍の中で全従業員約600人を解雇し、雇用保険の失業給付の受給を勧め、のちに再雇用を図るという手法は業界内に留まらず、その是非が問われる事態へと発展した。昨年の騒動時は、筆者も関係者を取材してその実情を伝えている(「タクシー会社『600人解雇騒動』が混迷続く実情」)

――とはいえ従業員の中には事前説明ができなかったのでしょうか。「急すぎる」という声もありました。

 3月半ばのグループ本体の中で、会議をし、緊急性があり、一刻を争うという結論に至りました。会社都合でいえばもう余力がない。乗務員目線でいうなら、今ならまだ失業保険を高い水準でもらえて、生活の足しになるはずだ、と。

 ほかの職種に比べ、他社へ転職しやすいのがこの仕事で、ほぼ100%再就職できる。合理的に考えるなら同意してくれるはずだ、という私の考えも根底にありました。ウチで続けても低い休業手当で飼い殺しのような状態になることは目に見えていたので。

現在もファイブスタータクシーの経営は現地の方に任せたまま、私自身はほぼ関わっていない状況です。

 ――現在のロイヤルリムジングループの運営状況は。

 5~8月は目黒交通の数台を除けば、完全休業状態でした。交渉の末、ガスや諸経費などの各種支払いを待ってくれる業者がでてきて、再開の見通しが見えてきた。資金の援助もあり、昨年9月に台数、時間を限定しながら5社の営業を再開できました。

 現在もグループ全体で東京5社、兵庫1社(ファイブスターを除く)が稼働しています。といっても、営業的には億単位の赤字が続いている。やればやるだけ赤字を垂れ流す状況で、夜は休業しています。最も効率的なのは全休業ですが、雇用調整助成金のおかげで何とか営業ができている。

今回、組合や従業員と話し合いで罵声を浴びながらも、「彼らが何に怒っているのか」という本質的なことに気づけていなかったんです。失業保険をもらって転職や再就職するという選択が従業員にとって最善だと考え、数字を提示して、説明しましたが、まったく意見が噛み合わなかった。

 ――具体的にはどういった部分で齟齬が生まれたのですか。

 話し合いを重ねていくと、給料や待遇だけではない、人間的な温度やつながりを重視している方がいることがわかってきたんです。目から鱗というか、ハッとして。あ、こういう方もいらっしゃるんだと、根本的な発想が間違っていたことに気づいたんです。

成長していくことを唯一の源泉としていた部分があり、集まってくれるのもそういう野心を持った方々でした。ただ、ここまでのパンデミックに対して予測や準備はしていませんでしたし、非常時の備えという概念に乏しかった。そこは私の甘さであり、ウチの弱さだったとも思います。

 ――このタイミングで、新しい事業所を開業した意図を教えてください。

 1月中旬に乗務員全員解雇のうえ廃業した会社があり、そこの社員さんから「何とかなりませんかね」と相談があったんです。自分でいうのもなんですが、私は異常にメンタルが強いのかもしれません。だから騒動時の批判も受け止められたし、これ以上失うものもないわけで。

構造改革を行っていかないと、延命を続けるだけになってしまう。これは自社だけではなく、タクシー業界全体にいえることでしょう。

 ――今後のグループの展望は? 

 先ほど述べたようにドミナントで営業所を増やしていく予定ですが、エリアは東京と兵庫しか考えていません。

 すでにコロナ禍で体力が持たないため売却を考える事業者さんは、水面下でかなりの数が出てきている。見方を変えれば人員獲得、事業拡大のチャンスでもあるわけです。

最終更新日:3/20(土)16:01 東洋経済オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6388337

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