変わる回転ずし 業界の行方は

コロナ禍においても比較的好調な回転寿司だが、大手4社にスタンスの違いが出てきている。



 あくまで回転レーンを維持しようとするのが、「スシロー」と「くら寿司」。両チェーンは東京都心部など、今まで積極的に展開してこなかった都市型立地の開拓に熱心だ。例えば、東京・吉祥寺では、2020年11月26日にスシローとくら寿司の店舗が同日オープンし、ホットな回転寿司戦争が起きている。

 一方、「はま寿司」は回転レーンをなくして、タッチパネルで注文した商品を専用レーンで速達する“回転しない寿司”化の実験を始めた。「かっぱ寿司」でも同様に回転レーン廃止に動いている。こちらの2社は、都市型立地の展開には関心が薄いようだ。

 別の動きもある。スシローは持ち帰り寿司の老舗「京樽」を買収してテークアウトを強化。一方、くら寿司は自社で養殖した魚をスーパーに卸す事業を始める。スシローが川下から販路を拡大しようとしているのに対して、くら寿司は川上からの流通への進出を試みる。

 さらに、はま寿司では全店に導入していたヒト型ロボット「ペッパー」を順次退職させて、案内専用モニターに切り替えている。かっぱ寿司を運営するカッパ・クリエイトでは、小澤俊治氏が退任し、元はま寿司取締役の田邊公己氏が新社長に就任した。経営力を高めるため、はま寿司では受付ロボットを交代させる。一方、かっぱ寿司は社長を交代させる。経営は科学か人事か、こういったところに両社の考え方の違いが浮き彫りになっている。

持ち帰り寿司と言えば、小僧寿しの奇跡的な復活が話題になっている。小僧寿しは20年4月以降絶好調で、既存店売上高は上期(1~6月)が111.3%、下期(7~12月)が113.6%と通年で2桁増だった。

 なぜ、小僧寿しと京樽で差がついたのか。郊外ロードサイド立地の小僧寿しに対して、京樽は都市型立地。京樽は商業施設の時短に大きく左右された。

 しかし、小僧寿しの例からも立地を再考すれば、持ち帰り寿司はコロナに強く、将来を見据えたM&Aとして面白い。京樽には「茶きん鮨」のような名物もあり、根強い人気も魅力だ。

 また、京樽店舗の3分の1ほどは、回転寿司「海鮮三崎港」や回らない激安寿司「すし三崎丸」。スシローの新業態で順調に約30店にまで店舗を伸ばしている、寿司居酒屋「杉玉」に転換すれば、成功しそうな店舗も多い。

 京樽の買収に動いた背景には、スシローがテークアウトに注力していることが挙げられる。20年9月、兵庫県芦屋市のJR芦屋駅構内にテークアウト専門の実験店を出したところ、予想以上の反響があった。そこで、テークアウト専門店を「スシロー To Go」と命名し、今年は10店以上の出店を目指す。2月26日、千葉県我孫子市のJR我孫子駅構内に関東1号店を出店した。

 また、スシローでは通常店舗での持ち帰りにも力を入れており、レジ横に非接触性が高い「自動土産ロッカー」を設置している。ネット、電話、FAXで注文を受け付けると、それに合わせて店員が寿司をつくりロッカーに保管。クレジットカードや店内セルフレジで精算後、注文者にQRコードを発行する。そのQRコードを使って開錠して、持ち帰る仕組みだ。感染リスクを恐れて店内飲食を躊躇(ちゅうちょ)する人でも、これなら安心というわけだ。

 また、スシローは従来回転寿司が弱かった大都市の攻略に力を入れている。コロナ禍で都心の物件が空いたため、積極的に出店している。都市型店舗は駅から歩いて5分以内で、1皿が最低120円(税別)と通常より20円高い。そして、2段レーン(通常の回転レーンと注文専用レーン)を設置している。メニューも若干異なる。

 20年は東京、大阪、名古屋などに13店オープン。今年は既に、2月に経堂店(東京都世田谷区)、3月に新宿三丁目店(東京都新宿区)がオープンした。

くら寿司は、20年10月期の既存店売上高(通期)が、前期比で95.7%。緊急事態で、20年4月には51.9%まで落ち込んだが、盛り返した。

 20年は夏から秋にかけて「鬼滅の刃」コラボ企画がヒットして、景品を目当てにした顧客が急増。また、10月と11月の「Go To イート」キャンペーンが、「無限くら寿司」と言われるほどの還元率の高さで大ブレーク。11月には、既存店売上高が前年同月比134.4%と驚異的な記録を達成した。

 同社も都心部への出店を加速している。1月14日、東京都心部に初の都心型店舗となる西新宿店、渋谷駅前店を同時オープン。今は5店まで増えた。メニューは、オフィスワーカー向け「大人寿司」を用意。お酒も充実させている。新型コロナの影響で大型の居酒屋などが退去しており、借り手がいないビルの空中階を狙っている。スシローの都市型店舗では1皿120円がベースなのに対して、くら寿司の都心型は110円となっている。

 くら寿司は、寿司の鮮度を保つため、回転レーン上の皿にプラスチックの蓋「鮮度くん」を設置していた。これには、飛沫を防ぐ効果があると認知されたことから「抗菌寿司カバー」と名前を変えた。

 また、20年11月には、入店から退店まで店員と接触せずにサービスを提供できる「非接触型サービス」を標準装備した店舗を、東京都東村山市にオープン。案内のパネルやセルフレジは、タッチレスで操作できる。メニューは顧客のスマートフォンからも注文可能だ。さらに、レーンに設置したカメラで顧客が取ったお皿の数を自動カウントする。座席間の背もたれも高く、寿司は「鮮度くん/抗菌寿司カバー」で守られている。

 今後は、「非接触型サービス」を徹底した「スマートくらレストラン」をスタンダードとして出店する。

 くら寿司の進化は、巧妙なマーケティング、店舗の改良にとどまらない。

 3月8日には、餌や水質でオーガニック水産物の国際基準を日本で初めて満たした、養殖の「オーガニックはまち」を販売すると発表した。認証機関であるオーガニック認定機構が策定した「有機水産養殖及び加工」という新しい規格に準拠している。

 同社では、養殖業者の丸徳水産(徳島県牟岐町)と共同開発したオーガニックはまちを、12月に約50トン出荷する計画。くら寿司チェーンで寿司ネタにするほか、スーパーなどへの卸売を行っていく。他の魚の卸売も検討している。

 くら寿司は定置網漁船の一船買いを進め、大阪府貝塚市に「くら天然魚市場」という天然魚専門の鮮魚店まで出している。だから、希少なクエなどもネタにできるのだ。

 このたび、天然魚に加えて養殖にも進出。物流の川上(生産)から川下(消費)まで、一気通貫する6次産業の形を整えつつある。

はま寿司は非上場だが、親会社「ゼンショーホールディングス」の21年3月期第3四半期決算におけるファストフードカテゴリー(大部分をはま寿司の売り上げが占めると推定される)は、1030億8700万円(前年同期比9.8%減)だ。前年より1割程度売り上げが減っているくらいなら、コロナ禍でも健闘していると言える。

 店舗に大きな変化が起きている。昨秋頃から、案内係の“社員”として、はま寿司の店服を着て愛想をふりまいてきた「ペッパー」が姿を消している。代わりに、スタイリシュなデザインの受付機が設置されている。

 同社・広報によれば「ペッパー君は子どもたちに人気で喜ばれていたが、もっと機能を拡張したいと考えると、限界があった」とのこと。

 新しい受付機に、具体的にどのような機能を付加していくかは、現在検討中である。

 また、同社では3年ほど前から、2段の注文専門レーンのみという、回転しない寿司の形態を実験している。

 これは、元気寿司が展開する「魚べい」「元気寿司」が行っているシステムだ。

 はま寿司では、回転レーンによる廃棄ロスを懸念。また、鮮度の高い握りたての寿司を顧客に提供するには、タッチパネルで注文した商品を席に直送したほうがよいと考えている。こうした施策で、満足度を高める狙いがある。

 同社では、回転レーンに寿司を流さず、注文品のみを流すことで、より飛沫が掛かりにくい方式に切り替えている。コロナ対策としては、専用レーン方式のほうが合理的だ。

 商品の改革では、外食最大手の購買力を発揮。20年11月に、価格は100円(平日90円)に据え置きのまま、マクロのネタを20%、サーモンのネタを25%それぞれ増量した。

最終更新日:3/15(月)9:35 ITmedia ビジネスオンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6387768

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