「まさか、政府が『居酒屋に行かないで』という時代になるとは思ってもなかった」。神戸市で居酒屋を営む店主は、静かに語りました。予約が取れない人気店がコロナ禍で一変。試行錯誤を繰り返し、新たな挑戦を続けています。その熱意はどこから来るのか、店主の1年を追いました。(朝日新聞大阪生活文化部記者・田中祐也)
4月中旬、スマートフォンを眺めていると、ZOZOの創業者・前澤友作さんのツイッターでの発言がニュースになっていた。前澤さんが新型コロナウイルスの影響で苦しむ飲食店の経営者だったらどうするのかという内容だった。
前澤さんはコロナの長期化を想定して新規事業を立ち上げる。だめだったとしても自分のせいではなく、コロナのせいだから仕方ない――。前向きな言葉に心が軽くなった。「ピンチをチャンスと思ってとにかく新しいことを始めてみるか」。
思いついたのがテイクアウトで人気のサバと穴子の棒ずしの宅配だった。パソコンは不得意だが、本を4冊買って、宣伝チラシを作った。5月中旬、棒ずしの配達を始めた。配達の合間、「コロナに負けてられへん」と心の中で何度もつぶやいた。
9月下旬から週替わり弁当の宅配を始めた。午前3時に起きて、午前4時に出勤して弁当作りを始める。おかずはいつも7~9品。メイン料理は重ならないように気を使う。
午前8時、友美さんが合流し、包装作業を手伝う。弁当のふたのQRコードには、読み込むとその日のおかずのレシピがわかるようにした。
前日までに予約が必要なこともあり、当初は1日に1個だけという日もあった。友美さんと二人でチラシを配布し、インスタグラムで発信。徐々に注文が増え、12月には平均20食、今は平均100食だ。
最終更新日:3/14(日)7:00 withnews