雑誌「小学一年生」なぜ好調

「ピッカピカの一年生~♪」

 30代以上の人たちは、一度はテレビCMで耳にしたことのあるフレーズではないだろうか?



 1978年から放送が始まり、十数年にわたって日本全国津々浦々の新小学1年生を登場させてきた小学館の児童学習誌『小学一年生』のテレビCMである。実はそんな懐かしいCMが、昨年度、約25年の時を経て復活している。

「去年は雑誌が創刊95周年という節目の年でしたし、『小学1年生らしさってなんだろう?』というのを改めて考えたんです。まだコロナ禍の前でしたけど、最近は世の中の流れの中に物事の『本質性』みたいなものが問われているように感じていました。そこで『小一らしさ』を深掘りした時に、象徴的だと思ったのが『ピカピカの一年生』の CMだったんです。懐かしさもあったのか、視聴者の反響もすごく良かったですね」

 そう語るのは、『小学一年生』の編集長を務める長竹俊治さんだ。

雑誌のデザインは、もっとスタイリッシュにできるんじゃないか。児童学習誌とはいえ、もっとカッコよく、アートな雰囲気にできるんじゃないか。そんなことも考えていたのだという。

「でも、結局やってみてわかったのは、やっぱり子どもにウケないとダメなんです。大人にとっての『上質』を単に押し付けても全然、響かなくて。子どもにウケる要素が中心にあって、その上でそのまま与えるのではなく、デザイナーは一流のデザイナーを使うとか、コンテンツメーカーはプロフェッショナルに頼むとか、そういうことを意識するようになりました。やっぱり子どもが『買いたい!』と言わないと、親御さん、絶対にお金は出さないんです。なにより子どもに選ばれないとダメなんですよね」

 一方で、ただ楽しいだけのもので終わってはいけないのが雑誌の難しい部分でもあるという。

「お菓子と一緒で、子どもが喜ぶだけでは結局、甘くて栄養のないものばかりになってしまう。子どもが興味を持つんだけど、実際にそれをやると勉強になっている――そういう子どもが喜ぶ味の“オーガニックのお菓子”みたいな楽しいだけじゃなく、学びのあるものにしないといけないんです」

 そんなこだわりが、前述のCM復活にもつながる下地になったという。

「あのCMって、とにかく“作り”がないんです。世の中の広告は良くも悪くも演出にあふれている。そんな中で、台本もなくて、ただただ子どもに言いたいことを言わせている。それをクリエイターが面白く切り取るだけ。スタッフは『毎回、胃が痛い…』と言っていますけど(笑)。例えば子どもが3人いたら、自然とトリオ漫才みたいな掛け合いになることもある。大人では想像できないことを言い出すんです。それも原点回帰で、子どもたちを中心においたからこそできたことなのかなと思っています」

例えばこの4月からは、子どもたちの写真を送るとそれがオリジナルのアルバムになって届くという通販サービス 『入学おめでとう!! 限定メモリアルメッセージえほん』 も開始するという。

「読者から送っていただいた写真と文言を使って、その子を主役に『小学一年生』の表紙をオマージュしたオリジナルアルバムが作れるんです。その唯一無二のアルバムを、申し込みをいただいた方に発送する予定です」

 そして、ここにもやはり子どもたちを軸に置いた思いがある。

「今の世の中って、小学生にはすごくつらい世界だと思うんです。入学式もないし、本来やれるはずのことができない。でも、だからこそ親御さんも『コロナだから残念だったね』とは子どもたちに思わせたくない。そういう時に、小学生にとって一番大事な1年生の入学というイベントを、普通とは違うけれども何とか形にしたい。そういうことって大人はみんな思っていると思うんですよね。それを形にした企画です。それが結果的に親御さんだけでなく、おじいちゃんやおばあちゃんにも喜んでもらえればありがたいとは思います」

 ほかにも、人気アーティストの「YOASOBI」を生んだサイト「monogatary.com」とコラボして、子どもたちのイラストをテーマに絵本と結びつけるといった読者参加型企画も行っているという。

 雑誌そのもののコンセプトは原点に回帰する反面、アプリやSNSの活用など、手法としての新しさは積極的に取り入れていく――。そんなところにも好調の要因が見て取れた。

多くの雑誌では、紙の売り上げが苦戦する中で、デジタルシフトを叫ぶ媒体も多い。ただ、少なくとも『小学一年生』のような児童学習誌においては、紙の優位さは間違いなくあるのだと長竹編集長はいう。

「デジタルに全振りするというよりは、紙とデジタルの融合を考えた立体的な企画作りが大事なのかなと思います。今度ウチの編集部から書籍が出るんですけど、それはアプリを使って段ボールで作ったロボットを動かして…みたいなものなんです。動力があるロボットを自分の手で組み立ててもらって、そのプログラミングはアプリで行う。やり方は本を見る。そういった本とアプリの連動の形を模索していけたらと思います」

 時代によって形は変わっても、これまで小学生たちの目を輝かせてきた児童学習誌の存在感を変えてはいけないのだ。

「普通の『教育』だったら学校に行けばいいし、『遊び』だけなら漫画や、エンタメの雑誌はいくらでもある。その間でいかに良いものを作るのか。子どもにとっては遊びでも、いつのまにか学習しているという感じでしょうか。子どもっていろんなことに興味があるけど、楽しいことしかやらない。その“好き”を見つけるのが、結局、一番重要で。大人もそうですけど、意外と自分の好きが見つからなくて、『世の中こうだから、これやらなきゃ』みたいなことを優先しちゃいがちじゃないですか」

 幅広い、上質な情報がなければ、本当はすごい才能があるのに自分で“好き”に気づけなくなってしまう。だからこそ「こういった学習雑誌を通して色んなジャンルのものに触れてほしい」と長竹編集長は言う。

「一見すれば遊びなんだけど、それは実は大人が本気で子どもたちのためにクリエイトしたコンテンツ。子どもだましじゃないんです。そういうものに触れることで、自分の“好き”を見つけてもらって、未来を作る糧にしてほしいですね。時代は変わっても、そういう芯の部分は変わらないんじゃないかと思います」

撮影=山元茂樹/文藝春秋

最終更新日:3/14(日)1:01 文春オンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6387642

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