農林水産省は12日、2019年の農業産出額を発表し、生産量で日本一の静岡県の茶は前年比18・5%減の251億円と激減、生産量で猛追していた鹿児島県に初めて抜かれた。産出額は鹿児島も13・1%減だったが252億円と静岡県をやや上回った。産出額ベースで静岡県は記録が残る1970年から続いた首位の座から陥落した。
茶の産出額は、生葉分と、製品の前段階に加工した「荒茶」分を合計する。静岡県は生葉147億円、荒茶104億円に対して、鹿児島は生葉163億円、荒茶89億円と、生葉の部分で初めて逆転された。静岡県は生葉の生産量が減り、取引価格が安かったことなどが原因とみられる。
茶の生葉産出額は全国合計でも15・1%減の522億円と落ち込んだ。19年は、春先の冷え込みで新芽の生育が伸び悩み、生産量が落ち込んだ。急須で入れるリーフ茶の需要が低迷し、厳しい相場だった。
静岡県の茶産出額は1992年の862億円をピークにほぼ右肩下がりの状況。荒茶生産量も減少傾向で、19年は静岡県2万9500トン、鹿児島2万8千トンと1500トン差となっていた。
■リーフ消費拡大急務 19年生葉、逆転許す
産出額ベースでは2019年に首位から陥落していた―。農林水産省が12日発表した19年茶産出額で、静岡県は長年守っていた日本一の座を鹿児島県に明け渡した。静岡県関係者は「荒茶生産量ではなく金額ベースで先に追い越されてしまった。特徴ある茶づくりで、静岡茶ブランドを高めていくしかない」とショックを受けた様子だった。
「この年は減産と価格低迷が顕著だった。生産者所得向上のためには、(リーフ茶の)消費拡大がまったなしの状況だ」。県お茶振興課の小林栄人課長は危機感を強める。
19年は、荒茶ベースでは静岡県の生産がトップを維持したものの、気象要因などもあって生葉ベースでは静岡県12万9300トン、鹿児島は13万7300トンと逆転されていた。
静岡県産は、乗用の大型摘採機の導入などが難しい山の斜面や肥沃(ひよく)な台地での茶づくりが特徴。手間のかかる分、取引価格の高い一番茶の生産比率が高いが、リーフ茶需要の低迷で、供給量が減少しているにもかかわらず、相場も下降基調が続く。
JA静岡経済連の真田泰伸茶業部長は「効率化できるほ場は基盤整備を進めて生産性を高めなければならないが、静岡は品質をより重視した茶づくりが生命線だ」と言葉に力を込める。
大規模化した茶園で生産量でも静岡県を猛追する鹿児島に対し、県茶業会議所の伊藤智尚専務理事は「山間部などで生産される静岡茶の価値向上が課題だ」と指摘。「消費者に伝わる付加価値を発信しなければならない。静岡茶の再生に向けて業界を挙げて、消費拡大に取り組んでいきたい」と語った。
【解説】価格低迷、垣根超え改革を
静岡県主力の茶の産出額が激減した背景には、担い手の高齢化による茶園面積の減少と、急須で入れるお茶の取引価格のここ数年での急激な低迷がある。
栽培面積はこの5年で4100ヘクタールも減少した。後継者が育ってないことなどが要因に挙げられるが、ペットボトル飲料などの躍進によるリーフ茶需要の低迷で、品質を売り物にしている静岡の茶業はニーズに合致せず稼げなくなっている。
荒茶平均単価は1999年の1キロ当たり2400円をピークに下降し、19年は984円。一方、鹿児島県茶市場の平均単価は1048円と静岡茶を上回っている。
県は本年度、業界内外の知見を取り入れるオープンイノベーションの手法で、静岡茶の新たな価値創造をうたった活性化策「ChaOI(チャオイ)プロジェクト」に着手したが成果はこれから。業界と産地の垣根を超えて一丸となって静岡茶ブランドの再興に向け改革を進めることが急務だ。
最終更新日:3/13(土)15:37 @S[アットエス] by 静岡新聞SBS