text:Takahiro Kudo(工藤貴宏)
editor:Taro Ueno(上野太朗)
ヤリスとは、トヨタのBセグメントのコンパクトカーだ。
これまで日本で「ヴィッツ」と呼ばれていたモデルが、2020年2月のフルモデルチェンジのタイミングで海外名である「ヤリス」へと改名。
2020年には「ヤリス・シリーズ」として15万1766台を販売し、登録車(小型車+普通車)の販売ランキングトップに躍り出た。
ただし、この台数はハッチバックの「ヤリス」に加えて、クロスオーバーSUVの「ヤリス・クロス」とプラットフォームからして別設計のスポーツモデル「GRヤリス」まで含んだもの。
純粋なハッチバックの「ヤリス」だけのカウントだと、11万5300台となる。もしヤリス・シリーズをボディごとにそれぞれ別カウントとした場合、5ドアハッチバックのヤリスは登録車ランキングで「ライズ」と「カローラ」に続き3位となる実績だ。
実はいま、Bセグコンパクトカーは3つ巴の戦いとなっている。
リードしているのはヤリス。対抗馬はほぼ同時にフルモデルチェンジしたホンダ「フィット」(2020年には9万8210台を販売)。
そして2020年11月には、2018年に登録車の年間販売ランキングで1位にも輝いた日産ノートもモデルチェンジ。2021年2月には7246台を販売し、今後はさらなる追い上げが期待される。
フィットの長所は「心地よさ」である。
スッキリした視界を実現している極細のAピラー、布張りの凝った仕立てのダッシュボードを組みあわせた開放感のあるインテリア、クッションのストローク感があって座り心地のいいシート。
またエンジンが4気筒なのも(3気筒のヤリスに比べて)質感がある。
しかし、それらの良さは実車に触れて試乗すれば確実にわかるのだが、数値と違ってカタログなどではわかりにくいのもまた事実だ。
パッと見た時に良さがわかりにくい。それが、ユーザーアピールとして考えた場合の新型フィットのウィークポイントといえる。
一方で、後席やラゲッジルームの広さや使い勝手はヤリスに対して明確にアドバンテージがあると判断できる。
ところで、両車のラインナップを見るとおもしろいことに気が付く。フィットにはなくてヤリスにある仕様があるのだ。
それは、1.0Lエンジン搭載車や廉価仕様である。
「Bパッケージ」と呼ぶ最もシンプルな仕様は、衝突被害軽減ブレーキをはじめとする先進安全装備まで非搭載なのだから割り切りに驚くばかりだ。そのため、ヤリスはボトムグレードの価格が、フィットの155万7600円に対して139万5000円と安い。
それもあってか、街中を走るクルマを観察すると、ヤリスはレンタカーや会社の営業車でも多く見かけるけれど、フィットはほぼ見かけることがない。そういった違いも販売に差がつく理由となっている。
「トヨタ販売店でも軽自動車を売っているではないか」という意見もあるだろう。
しかし、トヨタの軽自動車ラインナップには売れ筋ジャンルとなっているスーパーハイトワゴンがない。だからしっかりとバランスが保たれているのだ。
同門ライバルとすればダイハツからOEM供給されるリーズナブルなコンパクトハッチバックの「パッソ」くらいだが、それは数字に表れるほどヤリスにとって脅威にはなっていないようだ。
今後、フィットが形勢を逆転して販売台数でヤリスに打ち勝つことは難しいだろう。しかし、それは決してフィットの出来が悪いからではない。そこはしっかり理解すべきだ。
もちろん筆者も、ヤリスの燃費性能やハンドリングには最大限の称賛を送るものの、同時に新しい価値観を織り込んで快適なクルマ移動を提案したフィットの商品力の高さにも一目置いている。
商品力においてフィットがヤリスに負けているとは微塵も思っていない。ヤリスに数字で劣るとはいえ、コンスタントに月間5000台以上を売る現状でも成功といえる状況であると考える。
ただ、フィットは身内に強力な競合相手がいることで(ライバルのヤリスに比べると)苦労している。そこに尽きるのだ。
最終更新日:3/13(土)14:11 AUTOCAR JAPAN