メーカーにとって、世に出した商品はすべて血と汗の結晶。それらがユーザーに受け入れられれば、その感動もひとしおだ。老舗スナック菓子メーカー・湖池屋が2020年に発売し、人気を博している「プライドポテト」発売の裏には、自社のプライドを懸けた壮絶な戦いがあったという――。(清談社 真島加代)
● 大ヒットで欠品した 「KOIKEYA PRIDE POTATO」
老舗スナック菓子メーカー・湖池屋は、2017年に自社の新たなブランドラインとして「KOIKEYA PRIDE POTATO」(以下、PRIDE POTATO)シリーズを展開した。SNSを中心に爆発的に人気を集めたこの商品は、通常の商品開発よりも心血を注いだものだったという。
「『KOIKEYA PRIDE POTATO』は、新社長の佐藤章が就任するときに“新たな湖池屋を代表するポテトチップスを作る”というテーマを掲げた商品です。日本で初めてポテトチップスの量産化を実現し、湖池屋のものづくり精神を再び奮い立たせる象徴的な商品にしたい、という思いから名付けました」
湖池屋マーケティング本部マーケティング部次長の野間和香奈氏は、長年同社のマーケティングを担当し、スナック市場を深く理解している一人。そんな彼女を中心に、一大プロジェクトがスタートした。
● 想定を上回るヒットと ポテトショックが招いた悲劇
絶好調の滑り出しだったが、好調すぎたために1週間で1カ月の想定数を売り切り、2週間後には“欠品”を招いてしまう。
「それだけでなく、2016年に北海道に上陸した台風によって2017年に使う予定だったジャガイモの収穫量が大幅に減ってしまいました。原材料不足によるポテトショックと、想定を大きく上回る売り上げによって、欠品につながってしまったんです。その結果、継続して商品を供給できず、売り場に定着させることができませんでした」(野間氏)
たとえヒットしても、売り場になければ忘れられてしまう。PRIDE POTATOは、定番商品になる前の段階でつまずいてしまったのだ。
「6月には復旧しましたが、よほどの固定ファンでないかぎり覚えていないんですよね。秋冬にはラインナップを増やして展開しましたが、売り上げの勢いは弱まってしまいました」(同)
「菓子メーカーとしては、コンソメを無添加にするためにかなりの企業努力を重ねたのですが、コンソメ好きな人にとっては“無添加”は、魅力的に感じる人が少なかったようです。ちなみに、現在のプライドポテトでは、これでもかというくらいコンソメをふりかけています」(野間氏)
売り上げは回復しないまま、PRIDE POTATOは新商品を出し続けた。ラインナップを増やしたり、無添加シリーズを販売したり、食感や味のバリエーションを増やしたりと「低迷期はさまざまな試行錯誤を重ねた」と野間さんは振り返る。
「新商品も一定の評価はいただいていました。でも、市場調査をするとみなさんの認識は『白いパッケージのポテトチップス』と『湖池屋の高級なポテトチップス』というイメージばかりで、名前が浸透していなかったんです。商品のイメージが定着しない状況でラインアップを増やしてしまったので、ライトユーザーにとっては“別の商品”に見えていたようです」(同)
バリエーションを増やしてずっと発売していたにもかかわらず「最近見かけない」という声も上がっていたという。メーカーとユーザーの温度差が、如実に表れたエピソードだ。そして、シリーズ開始から3年がたち、PRIDE POTATOのリニューアルプロジェクトが立ち上がった。
「湖池屋を象徴する商品にしたかったので、たった3年で販売が終わるような事態は避けたかった。それこそ『湖池屋にプライドはないのか!』っていう話になってしまうので……(笑)。そこで今回は、味をパワーアップしつつ、名前を浸透させて指名買いしてもらうのが大きなテーマになりました」(同)
● 若手社員が全力で取り組み リニューアルした「プライドポテト」
リニューアルプロジェクトの中核を担っていたのが、同じくマーケティング部の高戸万里那氏。
「新入社員の頃、営業に配属されてすぐにPRIDE POTATOが大ヒットしたので、とても思い入れがある商品です。ただ、老舗の湖池屋がプライドをかけるポテトチップスなら、より圧倒的なおいしさで魅了しなければならない、とも思いました。そこで、6つあったラインナップを4つに絞って『のり塩』『うす塩』『コンソメ』、食塩不使用の『芋まるごと』のおいしさを追求したい、と提案したんです」(高戸氏)
しかし彼女の案は“小売店に提案できるアイテムが減る”という大きなリスクをはらむものだった。そのため、社内でも物議を醸したという。
「営業畑にいたので、反対する理由もわかります。ただ、ラインアップが多すぎると、店頭でお客さんが何を買えばいいのかわからず迷子になっている、という印象があったんです。メーカーとしても、6品すべての開発や販促に労力をかけるよりも、主力を4品に絞れば、一つひとつの商品にかけられる労力も増えると思ったんです」(同)
その後、高戸氏の熱意に負けてプライドポテトのラインナップは4つに集約された。さらに「新プライドポテト製法」という製法を新たに考案し、定番のラインアップの味を強化したという。
「プライドポテトは、より奥深い味わいを実現するために、2段階で味付けをする設備を整えてのり塩とコンソメはより味を濃厚にしました。味名も俗語で圧倒的なことを意味する『神』を使った『神のり塩』『衝撃のコンソメ』と表記して味の強さをアピールしています。反対に、健康志向の人に好まれるうす塩は『無添加』を表記し『芋まるごと』は、食塩不使用を大きく記載しました」(同)
最終更新日:3/12(金)22:35 ダイヤモンド・オンライン