新型コロナウイルスの感染拡大に伴って多くの都道府県で飲食店への時短要請が続く中、24時間営業できる自動販売機で弁当やスイーツを販売して苦境を乗り切ろうという店が増えている。手ごろなリース料で販売のプロデュースまで手がける業者もあり、参入が相次ぐ。従業員や客同士の接触も避けられるため、コロナ時代の新ビジネスとして注目されている。
チキン南蛮弁当500円、韓国風のヤンニョムチキン弁当500円、中華料理のユーリンチー弁当500円……。福岡県古賀市にあるカフェ風の肉料理店「Soil Kitchen(ソイルキッチン)」店舗前の自販機には、店の人気料理をおかずにした弁当などのメニューが並ぶ。買うと冷凍された商品が出てきて、自宅などのレンジで温めればいつでも「店の味」を楽しむことができる。
「新型コロナの収束にはまだまだ時間がかかる。先を読んだ営業形態を考えたい」。同店オーナーの三輪隆二さん(42)はそう話す。2020年4月の緊急事態宣言の時は店舗営業が制約される分を補おうと移動式のキッチンカーを導入したが、出店場所の交渉に苦労し、店員と客の接触も避けられなかった。
そこで準備を進めてきたのが自販機だった。再び福岡県に緊急事態宣言が出て午後8時までの時短営業を余儀なくされた今年1月に設置。閉店が通常の午前0時より早くなったため来店できなくなっていた仕事帰りの社会人などに喜ばれた他、日中も「店内に入るより気軽に買える」という高齢者に好評を博している。
飲食店収入の新たな柱になる可能性があり、人と人の接触も減らせる自動販売機。こういった新規参入店を支える自販機リース会社が福岡県久留米市にある。飲料自販機の設置・管理の傍ら、新しい自販機のプロデュースも手がける「JiHAN(ジハン)」だ。
同社が関わった顧客店の一つが福岡市博多区の明太子販売店「はかた寿賀や」。コロナ禍が本格化する前の20年2月、店前の自販機で土産用の「燻製辛子(くんせいからし)明太子」や「博多めんたい鍋スープ」を売り始めた。当初は午後0時半の開店前に訪れた旅行客が土産品を買えるようにとの配慮からだったが、感染拡大で客が減り、売り上げが前年の3分の1以下に落ちた現在は自販機が頼みの綱になっている。
「自販機は最低限の売り上げ目標はクリアできている。自販機で買って気に入ったお客さんが後日、通販などで再び買ってくれるケースもある」。管博史(すがひろふみ)社長(63)はそう手応えを話す。このほど久留米市内に2号機を出した。
ジハンは自販機による販路開拓をアドバイスし、売る商品に応じて庫内の温度管理や取り出し口のサイズを調整。月1万~2万円と手ごろな価格で自販機をリースして新規参入を後押ししてきた。これまでに関わってきたのはカフェの手作りクレープやカットフルーツ、はちみつなど多種多様。メディアでも紹介され、20年秋以降は「自販機を導入したい」と相談が相次いでいるという。
今年1月からは自販機の棚の1区画を月1000円で貸し出し、地元事業者の商品を売る「まちはん自販機」も設置。既にラー油やマスクなどを売る10社前後が参加していて、引き続き出店を募っている。今後、長崎や山口、東京でも自販機を設置する予定だ。
ジハンの堤真一社長(37)はコロナ禍がもたらす店頭商売の変容を見据えている。「条件さえ合えば自販機の費用対効果は高い。コロナで多くの事業者が経営体力を奪われる中、家賃や人件費といったコストを抑える流れはますます加速するとみられる。自販機ニーズは一層高まっていくだろう」【青木絵美】
最終更新日:3/12(金)10:10 毎日新聞