国内の牛肉の格付けで、最高級のA5等級が昨年、全体の2割を占め、15等級の中で初めて最多となったことがわかった。希少なイメージだったが、品種改良が進んで出荷量が増えた。だが、多くは輸出に回るなどして、庶民が口にする機会はなかなか巡ってこない。
牛肉の格付けは、農林水産省が承認した規格に基づく。「日本食肉格付協会」(東京)の格付員が、国内の食肉市場で処理された枝肉(骨が付いたままの肉)を1頭ごとに評価する。
等級は15段階ある。どれくらい肉が取れるかを示す「歩留(ぶどまり)等級」(A~C)と、霜降り(サシ)の具合や肉の締まり具合などを示す「肉質等級」(5~1)の組み合わせで決まる。A5は、食べられる肉の割合が最も多く、サシの具合も最も良い牛肉だ。
同協会の集計では、15段階評価が始まった1988年以降、A5評価の枝肉は全体の10%未満だった。だが2004年から増え続け、20年は枝肉約89万頭のうちA5が約20万頭。22%を占め、全等級で初めて首位になった。B2が18%(約16万頭)、A4が17%(約15万頭)と続いた。
A5の99%が和牛だ。B~Cランクは乳牛や、乳牛と和牛などをかけ合わせた交雑牛が多い。格付けが高いほど取引価格は上がり、A5の枝肉相場は現在1キロ3千円前後。A4で9割、B2で半値以下に落ちる。
同協会の担当者は「品種改良が進み、生産者は収益性の高い和牛にシフトしている」と話す。格付けされた枝肉はこの約30年間、90万頭前後で変わらないが、和牛の割合は3分の1から半数へと増えている。
「全国和牛登録協会」(京都市)によると、転機は91年の牛肉の輸入自由化だった。輸入肉との差別化を図るため、和牛の特長であるサシを増やす取り組みが進んだ。今では、交配の改良や肥育技術の向上で、和牛をA5に育てるのは難しくなくなったという。
■A5神話、海外では和牛ブーム
それでも、A5を食卓で口にする機会は少ない。
神戸市内のスーパーに店を構える精肉店では、A5牛肉は高価で扱えず、等級は上でもA4になるという。店主は、「売れ筋は100グラム500円前後のBランクの交雑牛。A5は年末だけ、『最上級の和牛肉』として1千~2500円で販売した」と話す。全国に約140店舗ある「イトーヨーカドー」では、販売する和牛肉のうちA5は約15%だ。
A5の牛肉はどこで消費されているのか。
複数の大手食肉卸会社によると、A5の多くは訪日客向けの高級レストランや、海外輸出に回っているという。
コロナ禍で和牛相場は一時急落し、A5などの高級牛肉も手頃な価格で出回ったが、学校給食への活用など国の支援策で回復した。高級和牛肉の輸出は堅調で、一般消費者にはまだ遠い存在のようだ。
ただ、格付けはあくまで目視による評価で、味の評価ではない。
兵庫県内で神戸ビーフを販売する60代の社長は、「A5は当たり前のように出荷されているが、A5はおいしいという『A5神話』や海外の和牛ブームで希少価値がつく。ひと切れ目は本当においしいが、脂が多いので自分はふた切れあれば十分」と言う。
全国和牛登録協会の向井文雄会長は、「サシの量による一辺倒の評価は来るところまで来た。サシに含まれる不飽和脂肪酸が多いほど口溶けがよいため、サシの質も評価されるべき時に来ている」と話す。(五十嵐聖士郎)
最終更新日:3/8(月)12:14 朝日新聞デジタル