「レジ袋」の有料化が昨年7月に義務付けられてから半年以上が経過しましたが、衣料品店などでは「紙袋」も有料化するケースが増えています。紙袋は有料化が義務付けられていないため、ネット上では「便乗値上げでは?」「無料で提供してほしい」といった声が上がっていますが、一方で、紙袋はビニール袋に比べてコストがかかるといわれており、店側にとって、無料提供を続けるかどうかは難しい選択です。
紙袋の有料化は“便乗値上げ”なのでしょうか。それとも、やむを得ないことなのでしょうか。紙袋の有料化に関するアンケートの結果を分析するとともに、経営コンサルタントの見解を聞きました。
アンケート結果を踏まえて、紙袋の有料化が消費者や店舗に与える影響について、経営コンサルタントの大庭真一郎さんに聞きました。
Q.紙袋の有料化について、「便乗値上げ」と指摘する声があります。そもそも、どのような行為が便乗値上げに該当するのでしょうか。
大庭さん「便乗値上げとは、やむを得ない理由に便乗する形で、必要性のない値上げやコストの上昇分よりも多い値上げを行うことをいいます。例えば、消費税が8%から10%に変わったとき、『消費税が上がった2%分よりも多く値上げした』などの対応です。
便乗値上げで、店舗は多くの利益を得られる可能性がありますが、それ以上に『顧客の流出』『企業(店舗)イメージ低下』という大きなデメリットが生じます。顧客に対し説明のつかない値上げを行うことで、顧客が不信感を抱いた結果、便乗値上げを行わない競合店などに流出し、便乗値上げを行った店舗の収益は減少します。さらに、顧客をないがしろにした店舗というイメージが定着し、事業存続の危機に立たされる可能性もあるでしょう」
Q.紙袋の有料化について、アンケートでは「便乗値上げだと思う」人が「便乗値上げだとは思わない」人を上回りました。やはり、紙袋の有料化は「便乗値上げ」に該当する行為なのでしょうか。
大庭さん「アンケート結果から、紙袋の有料化を便乗値上げだと感じている人が数多く存在することが分かりました。しかし、私は次の2つの観点から、『便乗値上げだ』と言い切ることはできないのではないかと思います。
これまで多くの店舗では、もともとコストが発生していた紙袋を客に対して無料で提供していました。すなわち、本来であれば、客側から相応の対価をもらうべきところを、独特の商習慣などが影響して、もらうことができずにいたのです。客が求める物やサービスを適正な対価で販売し、適正な利益を得ることが企業活動の目的であり、紙袋に関しても適正な対価で提供することが企業としての本来あるべき姿なのではないかと思います。
また、紙も資源であり、プラスチックのレジ袋と同様、地球環境保護の観点から消費を極力減らすことが求められています。森林破壊による生態系や気候変動に対する影響は甚大であり、紙袋を有料化することで紙資源に対する保護意識の向上を消費者に促す行為は便乗値上げなどではなく、企業の社会的責任を履行していると評価できるでしょう」
Q.もし、店が客に対して紙袋を無料で提供し続けた場合、経営上どのような影響があるのでしょうか。
大庭さん「紙袋を無料で提供するということは、全ての客に対して、購入金額の合計額から袋の仕入れ単価に相当する金額を値引きすることであり、その分、店の利益が減ります。有料化が義務付けられたレジ袋の仕入れ単価は通常1円から3円ですが、紙袋の場合は10円以上かかるのが一般的で、利益額への影響はレジ袋より大きいです。
利益が減るということは、店舗の投資にも影響します。魅力のある店舗にするための投資余力が弱まることで、客が得る利便性や満足度が減少し、店舗と客の双方が損をすることにもつながりかねません」
Q.紙袋有料化の店にとってのメリット、デメリットを教えてください。
大庭さん「紙袋の有料化で次のようなメリット、デメリットが生じる可能性があります」
【メリット】
・紙袋無料提供により生じていた利益の減少が解消される(経営コストの抑制)
・客に「環境問題に率先して取り組んでいる」という印象を持たれることで企業イメージが向上する
・客に対してマイバッグの持参を呼びかけることで、マイバックや関連商品に関する販売機会を生み出すことができる
【デメリット】
・競合店が紙袋を無料で提供していた場合、既存客が競合店に流出してしまう可能性がある
・レジの精算時に店員が一人一人の客に対して、紙袋を提供する必要があるかどうかを確認する手間が生じる
Q.紙袋を有料化する店が心掛けるべきことは何でしょうか。
大庭さん「紙袋有料化を便乗値上げと思われてしまうと、顧客の信頼を失う可能性があります。それを防ぐために店は紙袋の有料化に当たり、少なくとも次の3つを実践すべきです。
(1)有料化の理由を客に対して丁寧に説明する
先述のように、何の説明もなく紙袋を有料化した場合、顧客は不信感を抱きます。もし、紙袋を有料化するのであれば、魅力のある店づくりを行うための企業利益の適正化や地球環境への配慮など、費用を負担することに対して理解を示してもらえるような正当な理由を客に示すことが重要です。
(2)客の購入状況に適した紙袋を提供する
例えば、少量の買い物しかしていない客に対して、値段の高い大きな紙袋を提供することは好ましくありません。買い物の量に適した大きさの紙袋を提供できるよう、数種類のサイズの紙袋をそろえるなどの対応が望ましいです。
(3)有料化で得た利益を適正な形で客に還元する
『客の利便性や満足度を高めるための店づくりに対して投資をする』『商品調達力を強化するための投資を行うことで品ぞろえを充実させる』などの対応は必須です。
この3つを実践すれば、紙袋の有料化が顧客と店、双方にとって有益な取り組みとなり得るでしょう」
※この記事はオトナンサーとYahoo!ニュースによる共同企画で、Yahoo!ニュースが実施したアンケートの結果を活用しています。アンケートは2月10~17日、全国のYahoo! JAPANユーザーを対象に行い、1805人から有効回答を得ました。年代は30代13%、40代36%、50代以上が46%と多く、男女比はほぼ2対1。職業は会社員の59%が最多で、自営業9%、専業主婦(主夫)9%などでした。
最終更新日:3/8(月)1:20 オトナンサー