一世を風靡(ふうび)した「ロスジェネ世代」は今、どうしているのか。東京学芸大学教授の浅野智彦さんは、「大きな危機の先端にいる」と言います。【聞き手・須藤孝】
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◇根本的な間違い
――ロスジェネ世代は就職氷河期世代ともよばれ、社会問題化しました。
浅野氏 2000年代初頭にさまざまな政策がとられましたが、多くは若者対策でした。若者を労働市場に入れるためにスキルなどをつけさせる発想でした。労働市場の構造はそのままにして、若者をなんとかしようとしたのです。根本的に間違った政策でした。
椅子取りゲームで椅子が減っていく、それも急激に減っていく時に、椅子に座れなかった人に「もう少しやる気を出せば必ず座れるようになる、もっと速く走れ」と言いました。しかし座れない人は絶対に出ます。若者のせいにしたことで、日本の労働市場の構造的な問題を見なくてすむことになりました。
本当は、日本のシステム全体がうまくいかなくなったことの最初の兆候とみるべきだったのです。
――そのまま時間が過ぎ、ロスジェネ世代も40~50代になりました。
◆若者を前提にして政策を実施し、それがあまり効かないまま、年齢を重ねた人たちがいます。この人たちには若者向けの対策は効きません。若者という枠組みにとらわれたために、若者が若者でなくなった時にどうするかという問題意識も落ちてしまいました。
◇端境期を生きている
――ロスジェネ世代には若者論としての話題性があったから流行しました。
◆ロスジェネ世代に仮託して語られてきたことの多くはロスジェネ世代特有の問題ではありません。よく言われる不遇感などは、「新人類」などといわれたそれ以前の世代に比べると強いのですが、ロスジェネ世代以降のミレニアル世代やZ世代はさらに強くなっています。ロスジェネ世代だけを取り出して「○○である」とはいいにくいのです。
ただ、ロスジェネ以前の世代と、ロスジェネを含めたそれ以降の世代の間には落差があります。ロスジェネ世代は社会の転換点のスタート地点にいる、端境期を生きていると言ってよいと思います。重要なのは、ロスジェネ世代がどうであるかではなく、ロスジェネ世代が社会に登場して以降の変化です。
――社会がどう対応したかは問われます。
◆当事者が若者でなくなると問題がみえなくなりました。喉元過ぎれば熱さを忘れてしまいました。年齢を重ねてもその世代の課題はあるはずです。団塊の世代は若い時も後期高齢者になっても団塊の世代と呼ばれ、課題とされています。
◇いずれ直面せざるを得なくなる
――ロスジェネ世代と呼ばれた人たちがいなくなったわけではありません。
◆中高年にさしかかっているロスジェネ世代が今、何を必要としているかを考えるべきですが、そうはなっていません。さらにいえば、ロスジェネ世代より下の世代はもっと深刻ですから、ロスジェネ世代以降の人たち全体をどう考えるかという問題になるはずですが、こちらもそうなってはいません。
ロスジェネ世代の人たちは、50代、60代になっていきます。20年ぐらいすると、暮らしていけない人たちが出てきます。社会保障のあり方を根本的に考え直さざるを得なくなる時がきます。
――先頭にいるわけですね。
◆遠くから危機が迫っていて、その先端部分がロスジェネ世代です。大きな危機が迫ってきているのですが、今とりあえず生活できているから気にされていない、というのが現在です。
――暗い未来が近づいています。
◆ロスジェネ世代に特徴があるとすれば、直前の世代との落差を実体験していることです。ロスジェネ論壇はありましたが、「ポストロスジェネ論壇」はありません。社会への異議申し立てを積極的にした世代だとは言えます。私も参加した青少年研究会の調査では、現状追認の傾向はロスジェネ世代以降、下の世代になるほど強くなります。
ロスジェネ世代に希望があるとしたら、声を上げる姿勢を下の世代よりも強く持っていることかもしれません。(政治プレミア)
最終更新日:6/24(月)11:23 毎日新聞