3月3日、菅首相が4都県を対象に緊急事態宣言再延長を検討していると発表された。今回も2週間程度の営業自粛、行動自粛要請となりそうだ。人々の行動、経済活動にも更なる影響が出るだろう。昨年からずっと深刻なダメージを受けている飲食店、宿泊、観光、その他サービス業には大きな影響が続いている。これらの産業は、以前から非正規女性労働者を大量に受け入れているだけでなく、低賃金など不安定な処遇であることも特徴である。なかには、いわゆる「夜職」という性風俗店などにも勤務しながら、生計を立てたり、子育てをしているひとり親世帯も珍しくない。が「2020年の自殺者数はリーマン・ショック後の09年以来、11年ぶりの増加に転じた。前年比750人増(3.7%増)の2万919人(速報値)で、女性や若年層の増加が目立つ。新型コロナウイルスの感染拡大に伴う経済的な困窮や外出自粛によるストレスなどが影響したと考えられる。」と報じている通り、女性を生活困窮が襲い、自死にも追い詰めている。新型コロナ禍によって、もともと相談が多かったところ、今年1月から続く緊急事態宣言によって、主に女性たちからの相談が未だかつてないほどに急増している。筆者は社会福祉士という相談援助の国家資格を持ち、20年ほど生活相談を受けてきたが、経験上、これまでにないほど若年女性からの相談が多い。毎日、筆者はTwitterなどSNSを活用して、生活相談を受け続けているが、少ない日でも20件程度、多い日だと100件を超える相談がある。そのほとんどは10〜30代の若年女性だ。若年女性が相談に来られて話すことは「もうどうにもならない」ということである。例えば、東京に住む20代女性は派遣社員として、複数の飲食店を経営する企業の経理を担当していたが、新型コロナ禍で仕事に入れる日が減少し続けた。仕事は一応少ないながらあるので、新型コロナの終息を願いながら、一時的な収入減少を補う方法として、銀行のカードローン、クレジットカードのリボ払いなどで、生活費を工面してきた。しかし、長期間続く新型コロナ禍によって、家賃滞納もあり、生活福祉資金も借りて生活してきたが「もうどうにもならない」ということで、自己破産手続きと生活保護申請を先月おこなった。埼玉県に住む20代女性は、夫と2年前に離婚し、保育園に通う子どもを一人で育てている。飲食店でのパートで働いてきたが、生活が苦しく、離婚直後から土日だけ性風俗店で収入を得てきた。しかし、昨年から新型コロナ禍で、パートの仕事もなくなり、土日の性風俗店も「お茶をひく」(お客が来ない意味)ことがほとんどの日々となった。貯蓄もすぐに底をつき、子どもを連れて心中も考えたというが、相談に結びついて先月から生活保護受給に至っている。これまで若年女性が生活保護に頼ることは多くなかった。我慢させ続けてきたのである。福祉課に頼っても、「若いんだから働きなさい」「夜の仕事でも何でもあるでしょう」「好きな男性いないの?結婚したらいいのに」「家族がいるでしょう。まずは家族に頼りなさい」などと言われ、生活保護は受給できないという相談も相変わらず多い。以下のTwitterでの相談者の体験談は珍しいことではない。これが福祉の現実である。当然、生活保護は仕事ができる状態であっても、仕事先がなかったり、仕事探しに困難が伴えば、受給可能である。親族による扶養は保護に優先するが、扶養義務が果たせない事情があれば、保護申請上は何ら問題がない。そもそも本人が生活保護を受けたいと申請意思を示せば、申請書を記載させるなどして審査を開始する義務が福祉事務所にはある。それにもかかわらず、福祉事務所は違法、不当に、年齢や稼働能力、親族扶養を理由にして、保護申請を拒絶してきた過去があるということだ。それゆえに、過去の困窮女性たちは誰にも頼れず、自分の身体を危険に晒しながら、性風俗店で病気や障害を抱えながら働いたり、死に物狂いで日銭を稼ぐために売春せざるを得ない環境に追いやられることになる。援助交際、パパ活などマイルドな言葉で、売春や性の商品化が進んでいるが、そうしなければ生きられない福祉制度のずさんな実態が今でもある。それに抗議を始め「生きさせろ」「もういい加減に生活保護を受けさせろ」という声が当事者から上がり始めている。筆者ら福祉専門職も微力ながら、彼女らの生活保護申請に同行する取り組みを続けている。申請に同行する理由は、常態化している福祉課による違法、不当な行為をその場で牽制、是正するためだ。これら当事者の体験談は、SNS時代なので、一気に社会に拡散されていく。若いから、働けるから、家族がいるから、などを理由に福祉課で保護申請をさせてもらえなかった女性たちが赤裸々に実態を語り、その声が同じ境遇にある女性たちに響く。それによって、勇気づけられた女性や保護申請できるのかと理解した女性たちが福祉課の窓口に殺到し始めている。虐げられてきた女性が生活保護を受給し、保護費を原資に新しい仕事を探し始めたり、新しい人生をどう生きようかと模索する姿が新型コロナ禍で増えていることは希望の一つだ。世界各地では、10〜30代の若年層、いわゆるZ世代、ジェネレーション・レフトと呼ばれる年代の若者たちが旧来の社会システム、政治システムに転換を迫る行動が活発化している。社会福祉、生活保護の分野でも、困ったら生活保護を一時的に受けたらいいじゃないか、保護を受けることは何も恥ずかしいことではない、生活保護は生きるための権利だ、と従来の社会規範、市民意識を根本から変える原動力になっている。若年層の言動は、とても頼もしいことであるし、これら勇気ある情報発信によって、社会や福祉制度をよりよく変えていくために大きな貢献をしてくれている。もうこれ以上無理に働くことも、心身を酷使して生きる必要もない。一時的に生活保護を受けようよ、という当事者の女性たちの語りはとても心強いし、これからも一緒に歩んでいきたいものだ。いま苦しくて困っているのはあなただけではない。仲間がたくさんいるから、遠慮なく相談してほしい。
最終更新日:3/4(木) 6:02 藤田孝典