軒並み赤字 外食チェーン岐路

居酒屋など外食チェーン大手の「ワタミ」は10月5日、居酒屋から焼肉店への大々的な業態転換を打ち出した(ワタミ、120店を「焼肉の和民」に転換 料理配膳ロボット、特急レーンを使用した“非接触型”店舗に参照)。居酒屋の「和民」全店のほか、「ミライザカ」「三代目鳥メロ」などグループ全体の3割にあたる120店舗を「焼肉の和民」に切り替えていくという。



 新型コロナがなかなか終息しない中で、外食業界は厳しい状況が続いている。特に和民のような居酒屋チェーンは顧客が戻らず、存亡の危機に立たされている。日本フードサービス協会の集計によると、9月の「居酒屋」チェーンの来客数は前年同月の53.8%、売上高は52.8%にとどまっている。

 「パブ・ビヤホール」の客数46.5%、売上高44.4%に比べればまだマシとはいえ、「ファミリーレストラン」チェーン全体の売上高が前年同月の80.3%まで回復し、「ファストフード」チェーン全体が95.5%にまで戻っているのと比べると、壊滅的な状態だ。

 「GoToイート」などのキャンペーンが始まっているものの、どうしても「密」が避けられないイメージが強い居酒屋は敬遠されている。新型コロナが下火になったとしても、完全に終息しない限り、居酒屋の来客数などが元に戻るとは考えにくい。ワタミが一気に舵を切るほど、居酒屋業態の先行きは厳しいということだろう。

 前述の日本フードサービス協会の9月調査の詳細を見ると、「焼肉」チェーンは売上高が前年同月の91.7%にまで戻っている。52.8%の居酒屋を91.7%の焼肉店に変えることは、ある意味、合理的な決断とも言える。もともと排煙が必須で換気が行き届いているイメージの強い焼肉店は、消費者にとって新型コロナ下でも行きやすい業態と言えるのかもしれない。

 新型コロナウイルスの蔓延(まんえん)による外食需要の激減で、外食産業は存亡の危機に直面している。ワタミの「業態転換」は、極端にマーケットが変貌する中で、生き残りをかけた行動とみていい。こうした「業態転換」や「新業態進出」に生き残りをかける動きは、ワタミだけではない。

レストラン大手のロイヤルホールディングス(HD)や牛丼チェーン大手の吉野家HDは、宅配事業に参入すると発表した。ロイヤルHDは宅配や持ち帰り専門店を都内に出すとしているほか、吉野家HDも宅配専門店を都内で展開する。また、サイゼリヤも、実験的に宅配やテークアウト、小型店といった新たな業態を探っている。

 外食チェーンが業態転換に動く背景には、足元の業績の大幅な悪化がある。ワタミの2021年3月期の第1四半期(2020年4月から6月)は売上高がなんと44.3%も減少、最終損益は45億5000万円の赤字となった。新型コロナによる緊急事態宣言が出されていた時期と重なった3カ月の決算だったため、大幅な赤字となった。

 通期の業績については「合理的に算定することが困難」だとして「未定」としているが、第1四半期の赤字を吸収できる状況にはなく、さらに赤字額が拡大することは必至な情勢だ。

国内の投資は圧縮しても、経済の回復が早い中国での事業拡大を急いだ方が良いという判断なのだろう。サイゼリヤの計画では2021年8月期も、上海と広州、北京で67店舗を新規出店、退店予定との差し引きでも33店増やす計画を維持している。香港、台湾、シンガポールでも新規出店する予定だ。サイゼリヤとしてはアジアへの出店拡大で、生き残りをかける戦略を取る。

 売り上げが激減した外食チェーンは、大半がフリーキャッシュフローの大幅な赤字を金融機関からの借り入れで補っている。加えて、従業員を休職させて国からの助成を得る「雇用調整助成金」などを申請、何とか資金繰りをつないでいる状況だ。とりあえず目先の資金は確保できているものの、本業での多額の赤字が続けば、早晩立ち行かなくなる。

 業態転換によって店舗に配置する人員の効率化なども進めていくことになりそうで、今後、生き残りをかけて、合理化に踏み出す可能性が強い。新型コロナで、テレワークが一気に広がるなど、人々の生活パターンも激変している。今後、景気悪化が本格化すれば、消費者の財布のひもも締まることになり、外食チェーンにとっては、さらに苦難の時が襲うことになりかねない。より来客が見込め、収益性も維持できる業態への転換を進める動きは、今後ますます本格化することになるだろう。
(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

最終更新日:11/2(月)0:16 ITmedia ビジネスオンライン

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6375290

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