はんこ店 鬼滅キャラ名あるよ

竈門(かまど)、我妻(あがつま)、不死川(しなずがわ)、産屋敷(うぶやしき)――。公開中の映画で記録的なヒットを続ける人気漫画「鬼滅の刃」は、登場人物の難しい名字も魅力の一つだ。そんな名前が実在するのか。足は3年前に取材した福岡市東区のはんこ専門店に向かっていた。「日本一の品ぞろえ」でテレビでも話題の「はんのひでしま」。再会のあいさつもそこそこに「鬼滅の」と切り出すと、店主の秀島徹さん(73)は造作なく言った。「あるよ」



 創業約90年の老舗店舗。開店当時は店の近くに福岡市へ編入する前の旧箱崎町の役場があり、秀島さんの父が「はんこを忘れた来庁者の助けになれば」と思ったのが始まりだ。秀島さんは高度経済成長期の1970年代に店を継いだ。営業に走り回る保険や車のセールスマンが「この名字の印鑑ありますか」とよく飛び込んできた。どんな名字でも「あるよ」と言いたい。その思いで今は「ない名前はない」と言えるくらい、約8坪の店に認め印約10万本の在庫を誇っている。

 そんな秀島さんが「鬼滅の刃」に登場する難読で珍しい名前に反応しないはずがない。映画の大ヒットを伝えるニュースをきっかけに興味を持ち「あれだけ大騒ぎするからどんな漫画だろうと思ってね。見たらどれも漢字の名前で調べてみたくなった」とにんまり。もちろん関心を向けた先は名字だ。登場人物の名前の中で、秀島さんが特に珍しいと思った名字について在庫を確かめると、はんこが次々と見つかった。

 同じ姓のはんこがあったのは、主人公で鬼殺隊員の竈門炭治郎(たんじろう)▽炭治郎と同期の鬼殺隊員、我妻善逸(ぜんいつ)▽鬼殺隊員の栗花落(つゆり)カナヲ▽鬼殺隊の中で最上位の実力を持つ「柱」の1人、不死川実弥(さねみ)▽柱の1人、甘露寺蜜璃(かんろじみつり)▽鬼殺隊の長、産屋敷耀哉(かがや)――。番外として、特殊な刀を作る鉄地河原鉄珍(てっちかわはらてっちん)の「鉄地河原」と、鬼殺隊員に指令を伝える鳥類、鎹鴉(かすがいがらす)の「鎹」のはんこも見つかった。秀島さんによると、竈門姓は兵庫県に10人ほどいて、鉄地河原は北海道などで聞く名字という。

 登場人物の珍しい名前を並べてみて「作者のセンスを感じる」と秀島さんは感心する。例えば、主人公の名前。炭焼きの家系との設定だが「炭治郎の『炭』には昔から邪を払う意味がある。おそらく作者はそんなところから名前を付け、炭のある場所として竈門を名字に持ってきたのではないか」と想像を広げていた。

 はんこはいずれも1本550円で販売。今のところ鬼滅ファンからの問い合わせは「あまりない」が、過去には、人気男性アイドルの名字が刻まれたはんこを「お守りにしたい」と買い求めた客もいたという。

 昨今は政府のデジタル化推進で、行政手続きでの押印をなくす「ハンコレス」の動きが進む。秀島さんは「書類手続きに使う実用のはんこは無くなるかもしれないね」と憂う。だが一方で、書画や墨絵などに作者の名前とともに押される落款印に注目し「おもしろいものを作ろうとする動きが出るかもしれない」とも話す。秀島さんが「全集中」で力を注いできたはんこ文化は「不滅」なのかもしれない。【青木絵美】

最終更新日:11/1(日)13:02 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6375276

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