中国で「民族大移動」といわれる春節(旧正月)が10日始まった。今年は8連休で、アジアを中心に多くの観光客が訪れる見通しだが、かつて「爆買い」の象徴的存在だった訪日中国人の存在感は薄い。ただ、新型コロナウイルスの感染症法上の分類が2023年5月に5類に移行後、中国人観光客も増加傾向にある。観光地などでは、さまざまなおもてなしを用意し、将来の需要増に備えている。
福岡市博多区の商業施設「キャナルシティ博多」。大型バスが最大8台駐車でき、約150店のテナントのうち80店が免税対応店で訪日客に人気だ。1万円以上の買い物客に飲食店の割引券などを配布する春節のキャンペーンが始まった9日、1階の特設窓口には次々と訪日客が訪れていた。
ただ、客の多くは中国人ではなく、韓国人が目立った。伊藤義之支配人(42)は「コロナ禍前と比べて、中国人の団体客がまだ戻っていない。海外の方に来ていただけるよう、春節に限らずキャンペーンを継続的に仕掛けてリピーターになる人を増やしたい」と意気込む。
コロナの収束を受けて中国政府は23年8月、日本への団体旅行を解禁した。だが、日本政府観光局によると、訪日中国人はコロナ前の19年12月は約71万人だったが、23年12月は約31万人(推計値)と半数以下。通年でも19年の約960万人に比べ、23年は約240万人(同)と4分の1にとどまる。
中国人観光客が増えない一因が、中国経済の低迷だ。需要減などから、航空便数も伸び悩み、国土交通省によると、日中間で1週間に往復する航空機は24年1月は約800便で、19年10月の約1400便の6割程度だ。
現状は飛行機の直行便が多い首都圏や関西などに観光客が集中しているとみられるが、今年3月下旬には航空会社が夏ダイヤに変わるため、日中間の定期便が増える可能性がある。
寄港するクルーズ船も大型船が戻りつつあり、今月7日には福岡市の博多港に定員5000人超の中国初の国産大型クルーズ船が寄港。港近くの免税店は貸し切りバスがひっきりなしに出入りしていた。やはりクルーズ船が寄港する鹿児島県の観光地「仙巌(せんがん)園」は、2月上旬はレストランの予約がほぼ満杯となった。春節の一部期間は獅子舞を披露するなどイベントを準備してもてなす。
中国人観光客向けに旅行事業を展開する日中友好旅行社(福岡市)の高尾淑江(よしえ)社長(62)は「客はコロナ前の3分の1程度。中国人の短期滞在ビザ(査証)を免除しているタイやシンガポールに流れたのかもしれない」と分析。中国人観光客の好みの変化もあり、「4~6人ぐらいのお客様向けにオーダーを受けて旅行プランを作るが、イチゴ狩りや、焼き物作り、菓子メーカーの工場見学などをしている」と体験型の観光が人気になっているという。
もっとも、23年に日本を訪れた外国人旅行者は2500万人を超え、すでにコロナ前の8割近くまで回復した。中国人観光客が以前の水準に戻れば、オーバーツーリズムとなる懸念もある。福岡市観光マーケティング課の吉田崇課長は「特定の場所に訪日客が集中するのではなく、市内各地で回遊を促したり、九州や西日本の自治体とも連携したりして、観光客を分散する取り組みを強化したい」と話す。【宗岡敬介】
最終更新日:2/10(土)18:10 毎日新聞