寒さが身に染みる昨年の暮れ。城南運輸(広島県東広島市)の松本隆幸社長は悩んだ末、苦渋の決断をした。運転手が足りないため大型トラック2台を売った。「仕事はあるが運転手がいない。まだ使えるが…」。業者に引き取られる車両を見送り、寂しさがこみ上げた。
運転手約50人で70台ほどのトラックを回す。今の仕事量からすると運転手は3、4人足りない。売却した2台の走行距離は50万~60万キロほどで、処分の目安の半分だ。保険や整備で1台当たり年70万~80万円の固定費が負担になった。稼働率が上がる見込みはなく、手放すしかなかった。
残業規制が強化され、運転手不足に拍車がかかる「2024年問題」が4月に迫る。だが、運転手の確保は進まない。ハローワークに求人を出しても、連絡があるのは求人情報サイトの営業担当者ぐらいだ。松本社長は「年に1人か2人入ればいい方。定年退職者もいるので運転手は毎年減っている」とこぼす。
24年問題を前に、自力の経営を断念した運送会社もある。
中国地方のある事業者は昨年末、同業の子会社になった。元社長は24年問題を見据え2、3年前から運転手の採用に奔走したが集まらなかった。「長距離便ができなくなる」と従業員に伝えると、残業代が減るため5、6人が会社を去った。元社長は「運転手さえいれば自分の手で事業を続けていた」と悔しさをにじませる。
帝国データバンクによると、人手不足倒産は昨年、全国で260件に上った。物流業は39件(15・0%)を占め、業種別では建設業の91件に続き2番目に多い。中国地方でも昨年、広島県三次市や岡山市の事業者が運転手不足などで経営破綻した。帝国データバンク広島支店は「以前のように荷物が運べなくなる事態も起き得る」と警鐘を鳴らす。
運送業界に人が集まりにくい背景には、運転手の労働時間や待遇面の課題がある。厚生労働省によると、トラック運転手の労働時間は全産業平均より約2割長く、年収は5~10%低い。一般的に大手は受け切れない仕事を下請けに下ろし、下層の業者ほど荷主や元請けに対する交渉力は弱い。
そこにのしかかる24年問題。中国地方のある中小の運送会社は元請けに、運転手の長時間労働につながる荷役作業をやめさせてほしいと伝えた。すると、運賃の安い別の仕事に回された。役員は「強気の交渉は難しい」と打ち明ける。
広島県の運送会社の社長は同業の悩みをこう代弁する。「多層構造のどん底がどうなっているかは行政も把握し切れていない。24年問題にきちんと対応したら中小零細事業者はつぶれる」
最終更新日:1/16(火)12:28 中国新聞デジタル