誰も気づかない 中年男性の孤立

困ったことがあっても誰にも相談できない。異変があっても誰にも気がつかれない。孤立する高齢男性の問題はどこにあるか。仕事をしている中年の男性は本当に孤立や孤独感と無縁なのか。東京都健康長寿医療センター研究所研究部長の小林江里香さんと考えました。【聞き手・須藤孝】



 ◇ ◇ ◇ ◇

 ◇退職した後に交流する人はいるのか

 ――中年の男性にも孤立の問題はあるのでしょうか。

 ◆仕事で交流があるから問題ないと思われていますが、本当にそうなのか、ということです。

 もともと高齢男性は女性に比べて孤立しやすい問題は指摘されていました。

 しかし、高齢になってからの孤立は、その前の中年期に問題があるのではないかということです。

 今、仕事で交流があっても、仕事以外であるのか。退職した後に交流する人はいるのか。早めになにかしておく必要がある、という視点です。

 ◇「働いているから大丈夫」ではない

 ――自分は働いているから大丈夫と思うのではないでしょうか。

 ◆関係も多様性があるかどうかです。仕事以外の関係がない人はリスクが高いのです。複数のつながりがあったほうがよいのです。

 今、仕事で大変だとは思いますが、他の関係もそろそろ考えましょうということです。

 ――仕事をしているうちはなかなか難しいと思います。

 ◆私自身も今、仕事をしていてそう思ってしまう部分はあります。

 ただ月1回ぐらいなら地域での活動に参加してもいいと思う人はいるようです。

 まったく参加していない人よりは、年に数回でも参加していた人のほうが、退職後、月に1回以上参加している傾向があります。

 ――まったく参加しないよりは良いのですね。

 ◆仕事を辞めた後に増やすこともできます。徐々につながりを持っていけばよいと思います。

 受け入れる地域の側も、緩やかな参加を許容することが大切です。

 地域活動の担い手の高齢化が問題になっていますが、現在は60代でも働いている人が多いので、働く人が参加しやすい工夫が必要です。

 退職したら参加しようと考えている人もいると思いますが、今は退職年齢が高くなっています。退職を待っているといつになるかわかりません。

 仕事をしながら地域活動にも参加する両立を考えたほうがよいと思います。

 ◇自分でチェックを

 ――ほかにアドバイスはありますか。

 ◆人間関係や経済状態、健康状態を早めに自分でチェックして、どのような備えが必要か考えておくと良いと思います。

 周囲の人とのつながりや、相談できる相手がいるか、何かあった時に頼れるかなど、心理的な問題もあります。

 ――行政もあまり対応できていません。

 ◆未婚率が高くなり、離婚も増えていますから、中年男性の1人暮らしは増えていて、これからも増えるでしょう。

 しかし、中年期は1人暮らしであっても問題を抱えている人を発見すること自体が難しいのです。

 高齢者になる前の人たちは支援が必要な対象と思われていないからです。

 仕事をしていると、自分の生活を振り返る機会があまりないと思います。

 意識して立ち止まり、考えてみる機会を持つことが第一歩かもしれません。

 ◇他者への不信感

――客観的な状態である孤立と主観的な孤独感があります。

 ◆1人暮らしの人だけの問題ではありません。家族と同居していても孤独感があることがあります。

 同居しているがゆえに家族への期待感が高くなったり、家族の中で自分が役割を果たしたいという思いも強くなったりしますが、現実にはうまくいかないこともあります。

 同居していればよいということではなく、そのなかの関係が重要です。

 ――他者への不信感の問題があります。

 ◆孤立している人や孤独感がある人は他者に不信感を抱いていることも多いのですが、不信感があるといくら声をかけても出てきません。

 よびかける人との信頼関係を作るところから始めなければいけませんから、時間もかかります。

 ――難しいですね。

 ◆しかし、見捨てるわけにはいきません。問題を抱えていることが多いからです。

 人とつながることに慣れてもらい、信頼感を回復してもらうよう、少しずつやっていくしかないと思います。

 大勢が集まる、地域の一般的な交流プログラムにすぐに参加するのは難しいと思うので、そうした人たち向けのプログラムもあったほうがよいのかもしれません。

 ◇不幸なことが起きないように

 ――価値観が関わります。

 ◆どのような人間関係が心地よいかは人によって違います。

 たくさん友だちを作りましょうとか、押しつけがましいことは言えませんが、極端に交流が少ない孤立状態は避けるべきだと思います。問題が発生しやすいし、解決がしにくいです。

 定期的に顔を合わせる人がいないと異変があった時に気がついてもらえません。すぐに助けが求められないので、発見が遅れます。

 顔見知り、近所の人、行きつけの場所のような緩い関係でもいいので、意識的に交流を持つことが大事です。

 ちょっと困っても誰にも相談できない状態は、当人にとっても周囲にとっても不幸なことが起きやすいのです。(政治プレミア)

最終更新日:1/15(月)13:20 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6488294

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