新型コロナウイルス感染拡大の影響で企業業績が二極化している。「巣ごもり消費」や海外の需要を捉えた製造業が上向く一方、外出自粛に伴い航空や鉄道など非製造業は苦戦が長引き、出口が見えない状況。コロナ禍で旅行大手が債務超過に転落する例も出ており、経済界の危機感は強い。
◇ソニー、利益1兆円
SMBC日興証券によると、東証1部上場の3月期決算企業1291社が10日までに開示した2020年4~12月期連結決算は、全体で減収減益。21年3月期(通期)の純利益予想は423社が上方修正し、下方修正の77社を大きく上回った。上方修正の内訳は、非製造業の144社に対し、製造業が270社と6割強を占めた。
外出を避け、仕事や遊びを自宅で行う「巣ごもり」が広がる中、新たな需要を取り込んだ企業の好業績が目立つ。ソニーは家電製品やゲーム機「プレイステーション」が好調で、20年4~12月期の純利益は前年同期に比べ約9割増加。通期でも初めて1兆円を超える見通し。アニメ映画「劇場版『鬼滅の刃』無限列車編」が大ヒットした音楽部門も貢献する。
任天堂はゲームソフト「あつまれ どうぶつの森」の人気が収益を押し上げ、20年4~12月期は営業利益がほぼ倍増し、通期の連結純利益見通しを4000億円(従来予想3000億円)に上方修正した。古川俊太郎社長は「『あつ森』のヒットでゲーム機の需要も拡大した」と話す。
ソフトバンクグループは世界的な株高を背景に傘下投資ファンドの評価益が膨らみ、20年4~12月期の純利益が日本企業初の3兆円超えを達成した。トヨタ自動車やホンダ、日産自動車といった自動車大手にも中国や米国の市場回復の追い風が吹く。トヨタは通期の連結純利益予想を1兆9000億円(同1兆4200億円)に引き上げた。
◇「断腸」の希望退職
一方、人の移動制限が直接影響する業界は苦境にあえぐ。JR東日本は通期の純損失(赤字)予想を4180億円から4500億円に下方修正した。緊急事態宣言の再発令を受け、鉄道収入が従来計画を下回る見通しとなり、深沢祐二社長は「年度内に需要は回復しない」と表情を曇らせる。日本航空も通期で3000億円の赤字を見込む。菊山英樹専務は「感染再拡大による国内線の需要の低迷は誤算だった」と事業環境の悪化を嘆く。
近畿日本ツーリストを傘下に置くKNT―CTホールディングスは昨年末時点で34億円の債務超過に陥った。負債が資産を上回る債務超過が2期連続となれば株式の上場廃止に追い込まれるだけに危機感は強く、構造改革のため希望退職も募集。多くの応募が寄せられ、米田昭正社長は決算記者会見で「断腸の思いだ」と苦しい胸の内を語った。
今後の企業業績についてSMBC日興証券の安田光株式ストラテジストは「感染動向は鉄道や空の便、外食といった業界を大きく左右する。経済活動がいつごろ正常化するかが焦点だ」と指摘する。経済の立て直しには国民全体でコロナワクチンの接種が欠かせず、景気の押し上げ効果が期待されてきた東京五輪・パラリンピックの開催も不透明感が消えない。企業は固唾をのんで情勢を見守っている。
◇2020年4~12月期決算に関する経営者発言
▽ソニー・十時裕樹副社長 ゲーム事業の好調で過去最高水準の利益を見込む
▽任天堂・古川俊太郎社長 巣ごもりを背景とするゲームソフトの人気で、ゲーム機の需要も拡大した
▽トヨタ自動車・近健太執行役員 半導体供給の世界的逼迫がリスク。供給元と連携を密にする
▽ソフトバンクグループ・孫正義会長兼社長 1年前は機能しないと言われたファンドが収穫期を迎えた
▽JR東日本・深沢祐二社長 緊急事態宣言の再発令もあり、年度内に需要は回復しない
▽日本航空・菊山英樹専務 コロナ感染再拡大に伴う国内線需要の低迷は誤算
▽KNT―CTホールディングス・米田昭正社長 これまでにない厳しい状況。希望退職には多くの応募があり、断腸の思いだ
最終更新日:2/13(土)12:47 時事通信