韓国からの観光客が北海道に殺到している。新千歳空港の国際線を利用する韓国客は今夏、日韓関係が悪化する直前の2019年夏の人数を上回った。国際線旅客の半数程度を安定して占め、今後も増加が見込まれる一方、受け入れる北海道側の体制が整わずに増便が進まなくなる可能性がある。何が起こっているのか。
◇元徴用工問題、コロナの影響経て…
6日昼過ぎ。新千歳空港国際線ターミナルの到着ロビーに韓国からのツアー客数十人が集まっていた。仁川から参加したキム・テヒョンさん(40)は初めて北海道を訪れたといい、「北海道は雪と大自然がすごくいいし、温泉が大好き。ラーメンとジンギスカンも楽しみで、満喫したい」と笑顔を見せた。ツアーの担当者も「東京や大阪の大都市圏行きのパッケージもあるが、自然豊かな北海道が一番人気だ」と話す。
ここ10年ほど、韓国からの客は急激に増えていた。日本政府観光局の統計によると、2012年に21万3220人だった道内の韓国人宿泊者数は、18年に6倍超の137万4200人に激増。だが、元徴用工問題と半導体材料の対韓輸出規制強化で日韓関係が冷え込み、翌年は約26万人減った。
その後、新型コロナウイルスの影響で全便がストップしたが、22年7月、大韓航空が他国に先駆けて新千歳の国際便を再開。韓国からの旅客数は23年7月には関係悪化直前の19年6月(15万3998人)を上回り、17万6021人に達した。オフシーズンも10万人弱を維持し、国際線利用者全体の半数程度を占めている。
道内の7空港を運営する北海道エアポート(千歳市)の担当者は「韓国の復便は順調に進み、国際線に占めるウエートが非常に大きくなっている」と説明する。7日に尹徳敏(ユンドクミン)・駐日大使が鈴木直道知事を表敬した際にも、尹氏から北海道が韓国で人気の旅行先だとの発言があった。
◇映画「ラブレター」、雪が人気
なぜ韓国人に北海道が人気なのか。大韓航空札幌支店の尾崎公一支店長は雪やスポーツ、映画の存在を挙げる。「韓国は大陸性の気候で雪はあまり降らない。一方で、18年の平昌冬季オリンピックの影響でウインタースポーツの需要が高まっている。夏はゴルフバッグ、冬はスキーやスノーボードを持ってくる人が多い」と話す。
映画は、小樽がロケ地となった1995年公開の「Love Letter(ラブレター)」。韓国では今も人気だといい、「小樽を美しく描いたこの映画を見た世代が親や子供を連れてくる。若者から年配の方まで、北海道に来る人の幅がすごく広がった印象がある」。
◇地上スタッフ不足「三十数年で初」
旅行客が順調に増える中、懸念もある。航空機の誘導や乗客の案内など、空港の地上業務を担う「グランドハンドリング」(グラハン)スタッフが新型コロナの影響で減り、足りていないのだ。道航空課によると、航空需要が回復してきた今春以降、「グラハンが足りず飛べない」との声が航空各社から上がっているという。
尾崎さんも「慢性的に深刻な人手不足になっている。グラハンの不足で『飛べる』『飛べない』という選択を迫られることは自分が航空業界で働くこの三十数年で初めて」と肩を落とす。道内の空港にグラハンを派遣する業者は取材に「デリケートな問題で、コメントを控える」と答えた。
航空各社や北海道エアポートはワーキンググループを作って対策を検討。道の担当者も「インバウンド需要が右肩上がりの中、グラハン不足を理由に取りこぼしはしたくないが、空港を支える人が戻ってこないことには厳しい」と、採用情報の発信を強化している。人手不足が原因の過重な労働や事故も懸念される中、官民を挙げた対策が急がれる。【片野裕之】
最終更新日:12/18(月)11:40 毎日新聞