最近、子育てに関連するある言葉が注目されている。「隠れ教育費」。憲法は「義務教育は、これを無償とする」と定めるが、学校にまつわるモノやコトに意外とお金がかかる。100円単位の学習ドリルや名札から、制服や修学旅行費などの大物まで幅は広い。
広島市安佐南区で小中学生4人を育てるパート女性(43)は「リコーダーや彫刻刀、裁縫セット…。給食エプロンも数年前に個人での購入に変わったし。ちょこちょこ出ていくお金の積み重ねが痛いんですよね」。ことし小学校に上がった末っ子のランドセルは、姉のお下がりを使っている。
親世代と比べて手当や支援制度が増えているとは思う。でも学校指定の制服の値段が、隣の中学と数千円違うのが気になる。当たり前のように親が負担してきたが「義務教育なら、なるべく学校で用意して家で買うものを減らしてほしいです」。
文部科学省の2021年度の学習費調査では、公立小に通う子ども1人当たりの年間の学校教育費(給食費は含まない)は6万5974円。公立中に進むと倍増する。これに学習塾やスポーツ活動費を足すと公立小で計30万円、公立中で計50万円を超す。
そんな中、隠れ教育費対策に本腰を入れる自治体も出始めた。 岡山県笠岡市は23年度、小学校の制服や体操服の購入に使える最大2万円分のチケットの支給を始めた。同県備前市は22年度、小中学校で使うテストやドリル、理科の実験セットなどの学用品費を無償化した。備前市教委は「義務教育の中でも保護者負担が多いことが分かった。無償化で市の子育て支援を加速させた」と説明する。
学校給食法で保護者負担とされている給食費も隠れ教育費とみなし、全国で無償化する動きが広がる。広島県内では大竹市がことし4月、小学生で年5万円、中学生で6万円ほどかかっていた食材費の保護者負担をなくした。岩国基地関連の交付金を充てている。
12月上旬、大竹市の小中一貫校の小方学園では、小学1年と中学3年の1クラスずつ計60人余が一緒に給食を取っていた。「何が好き?」などと声をかけあって食べ始めたが、やがて箸と器の触れる音が大きくなる。地域の野球チームで活動する中3男子は「おなかいっぱい」、小1女子は「野菜がおいしい」と満足そうに食べ終えた。
市教委総務学事課の貞盛倫子課長は「子育て世代にとって何が助かるかと考え、毎日食べる給食の無償化を決めた」と説明する。小方学園に2児が通う会社員広実忠司さん(40)は「意識していませんでしたが、2人で年10万円は大きい」。ただ、同じ日本の子どもなのに自治体によってお金がかかったり、かからなかったりするのは「複雑な気持ち」とも言う。
中国5県では本年度、給食を無償化する自治体が10増え、現在21市町村が実施している。だが、実施割合は2割で、基地関連の交付金のある山口県岩国市を除くと人口10万人以上で無償化しているところはない。
9万人余の小中学生が住む広島市の場合は、全員の食材費を賄うには年50億円近くかかる。市教委は「市単独での無償化は考えていない。公平性の観点から、市長会を通じて国に全国一律の負担軽減の制度をつくるよう働きかけています」。給食費について実態調査をしている国の動きを待つ構えだ。
最終更新日:12/18(月)21:43 中国新聞デジタル