基準カロリー届かない 給食の苦悩

物価の高騰が、学校給食にも影響を及ぼしている。給食事業者の倒産が相次いでおり、やむなく肉や魚の量を減らしてしのぐ学校もある。現場から「このままでは、生徒の食を守ることができなくなる」と不安の声が上がっている。



「きんぴらはどう?」

11月中旬、午後1時すぎ。埼玉県志木市の市立志木中学校では、給食を食べ終えそうな生徒たちに、栄養教諭の猪瀬里美さんが声をかけて回っていた。

この日の献立は、ニンジンや赤ピーマン、こんにゃく、さつま揚げなどを炒め合わせた紅きんぴらに、舟運いろはうどん、レンコンの秘密揚げ、菊花ミカンに牛乳。水運で栄えた市の歴史にちなみ、レンコンで水車を模すなど工夫を凝らした。

献立のエネルギー量は668キロカロリー。国の学校給食摂取基準が定める中学生の1食あたり830キロカロリーに少し届かない。基準を上回る日もあるが、「その数字を満たすのは今、ものすごく大変」と猪瀬さん。物価高騰で食材費がかさむ中、栄養価を落とさないよう献立に頭を悩ませる日々が続いているという。

例えば「カレーライス、サラダ、ナシ、牛乳」という献立にかかる食材費は、昨年と比べ約40円上がり1人前362円。対して1食の平均予算は360円だ。400円かかってしまった日もあったという。

■こま切れ肉がやっと

どんなに食材が値上がりしても、予算には限度がある。市が生徒から集める給食費は月額5000円。それで賄うのが難しくなり、昨年7月以降は、新型コロナ対応の地方創生臨時交付金を活用し、月1050円を上乗せした。しかし、それでもやりくりは厳しく、肉や魚の量を以前より減らさざるをえない。「一枚肉は高いので、代わりにこま切れ肉に野菜や乾物を加えてつくねを作り、量を増やすなど日々、工夫している」

苦心するのは、費用と栄養だけではない。猪瀬さんは「給食は食教育の教科書」と語り、地域の食文化を知る機会にと地場産物を使うなど、食材にもなるべくこだわってきた。しかし、「このまま食材の高騰で予算優先の状況が続けば、生徒の食を守ることが難しくなる」と危機感を覚えている。

■赤字、倒産相次ぐ

食料品の値上げの波は、依然続いている。農林水産省の食品価格動向調査によると、11月(13~15日)は、鶏卵が過去5年間の同月の平均価格比で35%、鶏肉(もも肉)が同10%、サケが同21%、小麦粉が同20・5%、それぞれ値上がりした。

帝国データバンクによると今年は10月までで17の給食事業者が倒産。過去5年で最多ペースとなっているという。また同社が給食事業者の令和4年度の経営状況を調査したところ、374社のうち、127社が赤字となっていた。

学校給食などの食材を扱う企業の業界団体「全国給食事業協同組合連合会」によると、学校側が経費削減のため安い食材を選んだり、同じ食材でも以前より数量を減らして注文する傾向があるという。

同会の中島正二会長は、「物価の優等生とされてきた卵など、あらゆる食材が値上がりし、このまま元の値段に下がることは考えにくい」と話す。

■格差なく支援を

加えて、事業者側には物流費などの値上がりも重くのしかかる。市区町村と給食事業者が長期契約を結んでいる場合、途中で契約価格を改定するのは難しい。このまま増えたコストを価格転嫁できず、給食事業者の赤字が膨らむ状況が続けば、さらに倒産が増える恐れもあると警戒する。

学校給食に詳しい跡見学園女子大の鳫(がん)咲子教授(行政学)は、「家庭の経済事情はさまざまで、食材が高騰しても給食費の値上げは難しい」と指摘する。

鳫さんによると、保護者が支払う給食費は食材の実費に充当され、給食事業者の人件費や施設設備費などは含まない。それらは自治体の負担で賄うという。

また、「保護者の負担を軽減するために給食の無償化を決める自治体がある一方で、そもそも給食がない学校も約5%ある」と、自治体によるサービス格差も指摘する。鳫さんは給食費の無償化を国が支援するなど、「地域間のばらつきがないように、遅れている自治体の底上げを図り給食を守っていく必要がある」としている。(本江希望)

最終更新日:12/18(月)12:32 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6485300

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