全国4カ所の養鶏場で鳥インフルエンザの発生が相次ぎ、卵が品薄となる「エッグショック」が再燃する懸念が出ている。春先のピークから下落傾向にある価格は最高値を更新する可能性も指摘され、クリスマスや年末年始商戦を前に業者らは戦々恐々としている。【安藤龍朗、坂根真理、御園生枝里】
◇スーパーの客、買い控え
「卵の価格は、また上がると思いますよ」。東京都墨田区の「スーパーイズミ」の五味衛(ごみ・まもる)社長(64)は表情を曇らせた。
価格が高騰した昨冬、卵の売れゆきは普段の半分程度。物価高騰のあおりを受け「食費を抑えたい」と考える客が増え、卵を買い控える傾向が続いているという。
「1日置きに卵を買っていた人が1~2週間置きに買うようになりました。『卵はお客さんを呼ぶ商品』と言われ、以前は安くすれば客は増えたけど、今は値下げしてもあまり買ってもらえません」
この日の「お買い得品」は赤玉MSサイズ1パック248円。300円台のパックの売れゆきは今一つだ。
「12月は卵を最も使う時期でしょう? そこに鳥インフルエンザが流行してしまったら……」。需要が高まる時期だけに、供給量が減れば影響は大きい。
◇クリスマスケーキ値上げ
首都圏を中心に全国展開する洋菓子チェーンは昨年以降の動向を踏まえ、クリスマスケーキの値上げに踏み切った。売れ筋の4~5人向けサイズは300円値上げし3900円、5~6人向けサイズは400円値上げし4500円とした。
小麦粉やバターなどの原材料費の高騰が主な要因だが、卵の市場価格も考慮したという。同社の広報担当者は「今季の鳥インフルエンザの影響ではありませんが、昨年からの市場動向を踏まえて値上げを決めました。卵の価格が今後どうなるか、状況を見守っています」。
新潟市の水産練り製品メーカーも、今後の動向を注視する。全国有数のシェアを誇る同社は、正月用のおせちに欠かせないだて巻きを昨季は約1割値上げした。
今季は価格を据え置くが、同社幹部は「毎年のように鳥インフルエンザが発生しています。現段階で卵の調達に影響はありませんが、エッグショックが続けば大変です」と危機感をにじませる。
◇識者「1キロ380円の可能性」
卵卸大手「JA全農たまご」の相場によれば、Mサイズの月平均卸売価格(東京地区)は今年4月と5月に1キロ当たり350円を記録し、統計が公表されている1993年以降で最高値となった。
飼料価格の高騰や円安の進行に加え、昨年10月下旬以降に流行した鳥インフルエンザの影響で供給不足が深刻化した。価格はピークを過ぎて下落傾向にあり、今年11月は1キロ254円となっている。
しかし、卵の生産・流通に詳しい元東京農業大教授、信岡誠治さんは「昨季殺処分された採卵鶏約1650万羽のうち4割はまだ回復していません。供給態勢が完全に戻っていない現状で昨季並みに感染が広がれば、1キロ380円となる可能性もあります」と指摘する。
今季、養鶏場での鳥インフルエンザは11月25日に佐賀県で確認されて以降、茨城▽埼玉▽鹿児島――の各県で発生。殺処分対象は計約17万8000羽に上った。
信岡さんは「ウイルスの侵入を完全に防ぐ方法は確立されていません。生産者は消毒や空気口へのフィルターの設置などで対策をしていますが、感染するかどうかは運です」と語り、予断は許さない状況だ。
最終更新日:12/8(金)20:57 毎日新聞