リサイクル率80%の町 実現の秘策

四国で人口が最も少ない町、徳島県上勝町は、ごみ排出ゼロを目指す「ゼロ・ウェイスト」宣言を日本で初めて行った自治体として知られる。過疎、高齢化が進む町で、リサイクル率80%以上を達成するという先進的なまちづくりの取り組みが生み出されてきた秘密を学ぼうと、香川県多度津町の中学生29人が研修バスツアーで訪れた。SDGs(持続可能な開発目標)への問題意識、関心が高いとされる若い世代は、何を学び、感じたのだろうか。



■拠点施設は「?」の形

上勝町は県中部の山間部に位置し、人口は1401人(10月1日現在)、65歳以上の高齢者率52・25%。面積は109平方キロで森林が88%を占め、人が住めるのは2・6%にすぎない。一方、多度津町は瀬戸内海沿いに位置し、人口2万2101人、面積24平方キロ、古くから海上・陸上交通の要所として栄え「四国鉄道発祥の地」だ。

ツアーは民間奉仕団体、多度津ライオンズクラブ(LC)が結成60周年記念事業として「人口減少や高齢化という共通の課題を抱えながら先進的な取り組みに挑み続ける上勝町の原動力を、町の将来を担う中学生に学んでもらいたい」と企画した。

町立多度津中学ではLCからの提案内容を全校放送で告知し、先着順で参加生徒が決まった。

案内役は上勝町で視察対応を委託されている民間企業、パンゲアの片山雅仁さん。拠点施設のゼロ・ウェイストセンターは、上空から見ると「?」の形をしており、ゴミステーション、くるくるショップ、ゼロアクションホテルなど複数の施設からなる。旧ゴミステーションをリニューアル。建具などを再利用し、令和2年に運用開始した。

上勝町へは昨年度、国内外の団体など2222人が視察に訪れた。片山さんは「?の形をしたセンターに触れたことで何かの気づきを持ち帰って、将来に役立てていただけたら。目の前にあるものを当たり前と思わない柔らかい発想を持ってほしい」と話した。

ホテルの宿泊者はチェックアウト後にごみの分別を体験できるが、中でも中学生から人気を集めたのは、再利用を推進するくるくるショップ。町民が不要になった衣服や食器などを無料でショップに持ち込み、町内外の誰でも欲しいものを無料で引き取れるしくみとの説明を受けると「自分が持ち帰りたい物はないか」と真剣に探していた。

■町民自ら45分別

町内にごみ収集車はなく、町民自身がごみを全てゴミステーションに搬入し、45の分別を行う。運転免許や車のない世帯には2カ月に1度の運搬支援がある。

上勝町が独自に処理できる業者を探すなどした結果、現在は45分別に。分別の表示は「雑金属 入20円」「電球・蛍光灯 出105円」などと、1キロ当たりの買い取り、引き取り価格が明示されている。

飲料や食品の容器関係は洗浄と乾燥、紙類は紙ひもで縛るなど、ルールが徹底され、良い状態を保つため買い取りの単価が高くなるのだという。

一方、生ごみは持ち込めず、各家庭が生ごみ処理機で堆肥(たいひ)にし、処理機の購入補助がある。

ツアーで中学生たちは動画を鑑賞。自宅で十数種類に分別しステーションで45種類に分ける方法や、当初は細かい分別に不安があったもののスムーズにできるようになったという町民の感想が紹介された。

町は、町の指定場所1カ所で家電や原付きバイクなどを含む多種多様なごみを野焼きしていたという負の歴史がある。平成10年に導入した小型焼却炉2基は、11年公布のダイオキシン類対策特別措置法で1基が不適合となり、ごみの処理委託費が年間約3100万円と財政を圧迫した。ごみ政策の大転換を図り、15年、世界で100以上の自治体が行っている「ゼロ・ウェイスト」宣言を日本で初めて行った。

■リサイクル率80%以上

リサイクルやリユース、リデュースを進め、17年間で焼却・埋め立てごみをゼロにする目標を掲げ、リサイクル率は国内平均の約20%を大きく上回る80%以上に。しかし、焼却処分が不可避な医療関係や衛生用品、異なる複数素材が使われている靴などの製品があり、現状では100%は不可能と判明。令和2年、ごみをゼロにするための実験や挑戦に町内で取り組むなどを柱とした新宣言を行った。

参加した2年生の森井優希さんは「細かいルールがあり大変そう。ごみを何げなく捨てていたが、これからはもうちょっと使えるかなという目で見ていきたい」。3年生の前田洸誠(こうせい)さんは「友達と相談し、多度津町の未来に貢献できる人間になるため参加した。町全体でゼロ・ウェイストという意識を持って取り組んでいることは自分たちと意識の差があると思った」と話した。

有木秀樹校長は「子供たちに環境問題や将来の多度津のことを考える機会で、ありがたかった。この小さな町でこんなことができているんだという驚きと憧れや、地元の方々と一緒に研修に参加して将来への道筋も深く感じ取れたのでは。日常の学校教育ではなかなか生まれない感性が育めた」と、感想を述べた。

ツアーの様子は多度津LCの会報誌やホームページのほか、結成60周年記念式典での動画上映、報告会、記念誌への掲載などで紹介する予定。(和田基宏)

最終更新日:11/23(木)22:16 産経新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6482689

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