カスハラ 551蓬莱社員遺族が提訴

豚まんで有名な「551蓬萊」(大阪市)の社員だった男性(当時26歳)が自殺したのは、客から理不尽なクレームを受けるカスタマーハラスメント(カスハラ)や長時間労働が原因だとして、男性の母親が、労災と認めなかった国の決定の取り消しを求めて提訴した。22日に大阪地裁で第1回口頭弁論があり、国側は請求棄却を求めた。



 訴状によると、男性は2015年3月に入社後、通信販売の電話受付業務を担当。チルド商品の注文やクレームの電話に対応し、客から「死ね」「バカ」などと罵声を浴びせられることもあった。17年10月にうつ病と診断されて休職し、18年6月に自殺した。遺族は労災申請したが、大阪中央労働基準監督署は21年3月、「心理的負荷は強くなかった」として労災と認めなかった。

 会社の業務日報には、男性が受けたとされるクレームの内容が記されていた。それによると、注文者から「届け先の電話番号が分からない」と電話があり、「何かあったら注文者に連絡する」と伝えたところ、「昼間は電話なんて出られない」と怒られ、「回りくどい説明しやがってボケ。上の者出せ」とまくし立てられる▽配送先が決まっていないが購入したいという客から問い合わせがあり、システム上は対応できないと答えると、「もう購入するなって言いたいんですか」と激怒され、一方的に電話を切られる――といった出来事があったという。

 遺族側は、人格を否定するようなカスハラに加え、多い時で月100時間程度の残業によってうつ病を発症して自殺に至ったと主張している。また遺族側によると、職場の電話機は当時、通話内容を録音できず、かかってきた電話の番号を表示する「ナンバーディスプレー機能」もなかったという。男性は母親に「(客から電話の)録音を聞き直せって言われても『録音がない』と説明するとまた怒られるからしんどい」と話していたといい、遺族側は「迷惑行為から従業員を守る設備がなかった」と会社の対応を批判する。

 母親は代理人弁護士を通じ「息子はとても大切な存在でした。国にはきちんと精査して労災だったと認めてほしいです。息子だけではなく、今後似た環境に置かれた人たちの命を守ることにもつながればいいと思っています」とのコメントを出した。会社側は取材に「コメントを差し控える」としている。

 ◇カスハラで労災、22年度に6人

 流通やサービス業などの産業別労働組合「UAゼンセン」が2020年に実施したアンケート(回答数2万6927件)によると、カスタマーハラスメントについて56・7%が「過去2年以内に被害に遭った」と回答した。最も印象に残った行為は、暴言39・3%▽同じ内容のクレームを繰り返す17・1%▽威嚇・脅迫15・0%――で、対応については「謝り続けた」が44・4%と最も多かった。

 厚生労働省によると、顧客や取引先からのクレームが原因で精神障害を発症したと労災認定された人は22年度に6人おり、うち2人は自殺していた。厚労省も対策に動き、22年には企業向けの対策マニュアルを作成。さらに23年9月、精神障害の労災認定基準にカスハラを新たな類型に追加した。具体例として、①客から治療を要する程度の暴行を受けた②人格や人間性を否定するような言動を執拗(しつよう)に受けた――などを挙げている。【鈴木拓也】

最終更新日:11/22(水)20:46 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6482591

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