令和6年春闘の賃上げ率は、約30年ぶりの高水準となった今年を上回るとの見方が早くも強まっている。物価高に賃金上昇が追い付かず家計が疲弊している上、深刻な人手不足が企業に賃上げを迫るからだ。ただ、物価高は当初想定を超えて長期化し、来年度も賃金の上昇水準を上回る可能性が高い。異例の賃上げが2年続いても消費喚起にはいまだ「力不足」とも指摘される。
■労使で足並み
経団連の十倉雅和会長は政府と労働団体、経済界の代表者が話し合う15日の政労使会議後、「今年以上の賃上げを目指す意気込みで熱を傾けている」と語った。連合は6年春闘で基本給を底上げするベースアップを3%以上、定期昇給と合わせ5%以上という今年以上の賃上げ要求を掲げる方針で、労使が〝今年超え〟で足並みをそろえた。
第一生命経済研究所の新家義貴シニアエグゼクティブエコノミストは、6年春闘の賃上げ率を3・70%と予測する。厚生労働省の「民間主要企業春季賃上げ要求・妥結状況」によると、主要民間企業の今年の平均賃上げ率は3・60%と平成5年(3・89%)以来、30年ぶりの高い伸びだったが、新家氏の予測はこれをさらに上回る。
背景にあるのが物価高への配慮だ。7~9月期の実質国内総生産(GDP)は3四半期ぶりのマイナス成長で、物価に賃金の伸びが追い付かず家計が圧迫され、GDPの半分以上を占める個人消費がついに腰折れした。物価変動を加味した実質賃金は9月時点で18カ月連続でマイナスが続く。
人手不足も深刻で、帝国データバンクの調べでは、人手不足を感じる企業の割合はインバウンド(訪日外国人客)需要が旺盛な旅館・ホテルを筆頭に全業種で52・1%に上り、平成30年(52・5%)に次ぐ2番目の高水準。家計に比べて、堅調な企業業績も賃上げ機運を後押しする。
■日本経済牽引にはなお距離
とはいえ、新家氏は2年連続で3%台後半の賃上げが実現しても「消費の活性化をもたらすには力不足」との見方を示す。予測通りの賃上げ率が実現すれば6年度の名目賃金は前年度比2%強増加するとみられる。だが、日本銀行が10月末に公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」では6年度の消費者物価上昇率(生鮮食品を除く)は2・8%に上り、年度ベースでは実質賃金のマイナスが続く。
今年超えの前向きな機運には期待も強いが、賃上げが日本経済を力強く牽引(けんいん)する状況には依然として距離がある。(田辺裕晶)
最終更新日:11/21(火)21:18 産経新聞