ピーチCEO成田国内線担いたい

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大により、大きな打撃を受けた航空業界。日本のLCC(低コスト航空会社)の元祖とも言えるピーチ・アビエーション(APJ/MM)も、国際線の運休や国内線の減便など、事業計画の変更を余儀なくされている。

 長期化が予想される新型コロナの影響を、ピーチはどのように乗り越えるのか。所属するANAホールディングス(ANAHD、9202)の事業構造改革の影響は──。路線や機材計画など、森健明CEO(最高経営責任者)に聞いた。

 前編では10月25日に再移転した成田空港第1ターミナル(T1)の活用方法や、12月に就航する中部路線の戦略、全日本空輸(ANA/NH)からの路線移管の可能性など、後編では10月25日に就航したエアバスA320neoのほか、今後導入を予定するA321LRを含めた機材計画、国際線のさらなる再開見込みなどに迫る。

◆ANAからの路線移管「なし」

── ANAからの路線移管の計画はあるか。

森CEO:「移管」というワードで話しをしたことはない。ANAは移管するが、われわれは運航しなければならない。路線決めるときにプロフィット(黒字化)する路線しか出さない。「この路線を飛んでくれ」と言われたことは一回もない。たぶんこれからもない。

 (10月25日に就航した)仙台-那覇線や札幌-那覇線、中部-那覇線はANAとまるかぶりだ。これまでもANAと同じ路線を飛んでいる。これまで路線について、ANAやANAホールディングスと話し合った経緯がないので、「移管」というワードは「そういうのもあるんだ」という感じだ。

 2社が飛んでみて、どちらかが引く(編注:運休)ことはあると思う。現在は2社で飛んで、総需要が拡大している。われわれがANAの路線を引き継いで運航する、という発想はまったくない。

 フルサービス航空会社(FSC)はFSCらしく、LCCはLCCらしく。お客さまに選択肢を示さないと、総需要は拡大していかない。これからのコロナ後を考えると、両社でしっかりと、違う商品を提供していく必要がある。

◆羽田国内線と同じ感覚を成田にも

── 成田からの国内線と国際線は、今後5年から10年の間に拡大する計画を示した。どのくらいの規模感か。

森CEO:今とは比較にならないくらい、たくさん出していきたい。成田空港に来れば、国内どこでも行けるような状態にしたい。現在は複数社でそういう状態ができている。

 国際線はアジア地域が中心で、本数や路線については(海外の航空会社とも)競合する。日本の航空会社ができることは、国内線の拡大。成田の国際線は大手がしっかり飛ばして、国内線はピーチが担う。比率では国内線が圧倒的に多くなる。

 航空だけでなく、鉄道も含めネットワークが広がることで、日本の魅力が拡大している。いろいろなところに需要が発生し、訪日客の回復後は行きたがる人が増える。成田からの国内線は、需要があるところに飛ぶ。小さい都市も含め、これから増えていく。羽田からはどこでも行けるが、LCCはない。同じような感覚を成田にも作りたい。

 成田は大手はないが、LCCがある。羽田にはLCCはないが、どこでも行ける。「どこでも行けます感」を成田でも作っていかないと、成田に利用客を引っ張れない。

 都心から成田まで、1時間で到着できる。大阪は梅田から関空まで同じくらいで着くが、成田は「遠い」感覚がある。千葉の方は羽田に行く人が多い。本来、成田のほうが便利だが、千葉の人には成田がありがたいと思われていない。都心からの有料特急はターゲットが都内で、千葉県内はほとんど停車しない。成田空港は千葉県内の近い方に使ってもらいたい。需要はすごくある。

 羽田に行けばどこでも行ける、という感覚を成田に持ってきたい。しかも圧倒的に安い運賃で。気軽に成田に来てもらいたい。成田にはポテンシャルが十分にある。

 それもあり、早めにT1へ移転した。(LCC専用の)第3ターミナル(T3)は拡張中だが、イメージでは完成後も(キャパシティが)足りていない。どこかのタイミングで動かなきゃならないと思っていた。早めにT1へ再移転して、利用客の認知度も高めたいと考えた。

 T3に偏った利用客がT1へ戻る。利用客が分散すると、空港内で営業している各店舗にもお金が落ちていく。現在は空いているので、密が避けられる。この時期でもメリットはある。鉄道駅とも直結しているので、T1は空港近隣の方にも利用してもらいたい。

 T3のメリットは、都心からのバスがいちばん先に到着する。近隣の方は電車でT2に到着後にT3へ向かう必要があり、ワンクッションが発生する。T1はダイレクトに到着できる。「便利ね」という感覚が後から着いてくれば需要が広がると思う。成田空港にとってもいいことだ。

 空港を運営する成田国際空港会社(NAA)は、国内線の着陸料を一時的に無料にした。この時期だけだろうが、熱意を感じる。成田空港としても、国内線をしっかり対応していきたい、というNAAの思いを感じる。冬ダイヤ期間中に新しい路線を開設したい、という気持ちになる。新規路線は前向きに考える。新路線の構想はいくつかある。路線を決めるのは時間かからない。

◆中部就航「当初から検討」

── 12月からは中部空港へ就航し、札幌へ1日2往復、仙台へ1日1往復乗り入れる。ほかはどの路線を検討しているか。

森CEO:愛知県の大村秀章知事と面会したときに、知事からも「路線の拡大を検討してほしい」と要望があった。それを受け、時間を置かずに新しい路線を開設していくと伝えた。どのような路線がいいのか、県や財界と話をしたところ、今回は北方面だったので「バランス良く出してもらえるといい」と言われた。この「バランス良く」というのが検討の材料になる。

── 具体的には九州や沖縄、四国方面などか。

森CEO:「バランス良く」とおっしゃっていたのは、恐らく南方面だと受け止めている。この時期に開設する路線は、いずれも早期に利益を上げないといけない路線。新規路線の開設後、お客さまが定着するのは半年くらいかかる。今はそんなに待てない。冬ダイヤ中の就航直後から、ある程度の需要が見込める路線しか出せない。中部からも需要が高そうな路線を優先して出していきたい。

── 中部には夜間駐機して拠点化する。中部から各拠点間への路線も考えられるのか。

森CEO:当然考えられる。ピーチがすでに就航している空港への路線開設はコストがかからない。拠点間にはこだわらず、既存の就航地から選ぶことになる。中部からは、ピーチとして初めて飛ぶところへの路線は考えにくい。

── 中部就航はいつから検討してきたのか

森CEO:(ピーチが就航した)2012年から検討を重ねてきた。どこの空港がいいのかを検討する際、中部は対象に必ず入ってきていた。

── 検討から8年での就航。時間がかかった理由は。

森CEO:就航当初は、関西空港をベースにして収益を確保するのがいちばんの目標だった。次は国際線への進出、その次は首都圏への就航など、大きなマーケットを1つひとつ抑えていった。

 そうこうしているうちに、日本のLCC各社が中部に関心を持たれて、中部を拠点とした。海外のLCCも中部路線を開設し、中部の需要が急激に高まった。検討している間に、スポット(駐機場)やターミナルの位置、キャパシティ(容量)など中部の自由度が低くなっていった。気が付いたときにはダイヤ(運航スケジュール)の制約を受けるなど、参入のタイミングを逸した。2019年9月にオープンしたLCC専用の第2ターミナル(T2)ができる前までは、チェックインする場所もそんなに広くなかった。

 LCCターミナルのオープン後、LCCが複数社入っていても自由度の高い運用できるようになった。本格的に中部就航を検討したのは、LCCターミナルのオープンがきっかけだ。

 LCCターミナルができると各社は増便する傾向にあるので、動向を見たかった。開業してから就航を見極めた。去年から今年の頭くらいにかけて、今年の冬ダイヤで就航しようといざっくりとした計画があった。

── 今回は第1ターミナル(T1)に就航する。

森CEO:矛盾が発生する。4月から検討したが、正式に就航を決めたのはごく最近。結果をすぐに出さないとならないことから、検討に時間がかかった。愛知県からも要請を再三受けていた。ハンドリング(地上業務)はANA系列にお願いすることになる、と考えていた。具体的な就航日は夏ぐらいから検討を開始した。

 T1は現在、ガラガラの状態。ANAのハンドリング会社もT1で限られた生産量でこなしている。LCCターミナルで展開すると、そこに係員を配置しなければならない。短時間で効率的に展開するのであれば、T1がいい。ハンドリングの都合でひとまずT1を使う。

── 将来的なT2移転の可能性は。

森CEO:十分にある。T1はいずれ埋まってくる。T1がいっぱいになったとき、「狭いところでやりますか」という話になる。LCCターミナルに余裕があるのであれば、むしろそちらのほうが効率的にできる。

── T2は駅から歩いて7分程度かかる。そういう点での懸念は。

森CEO:どの空港のLCCターミナルも遠いところになる。関西空港のT2も遠い。国内線と国際線を一体運営できるのが効率的。そういう場所を確保しようとすると、空いているところに建設するので必然的に遠くなる。歩いて行ける距離かそうでないかが大きい。歩いて行ける場合は歩くので遠く感じる。関空のようにバスを使うしかないところの場合、バスに乗るしかないので遠いとは思わない。歩いて行ける距離だとバスに乗らない。

 中部のT2にも当てはまる。「ほどほど遠い」というのがLCCターミナルにとって致命的だ。T1との間にボーイングのミュージアム(FLIGHT OF DREAMS)があるなど、楽しませる施設がある。時間がある人はゆっくり歩けばいいが、急いでいる方は……。

 LCCターミナル(への移転)をもし考えるとすれば、アクセス方法の改善が必要だろう。T2にストレス無くたどり着ける方法があると思う。今回はT1で運用するが、中部国際空港会社といっしょに調べてみたい。

(つづく)

最終更新日:10/29(木)9:35 Aviation Wire

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6375024

その他の新着トピック