350円ランチ提供 複雑な思い

ニッカウヰスキーの巨大ネオンサインを臨むビルの4階。昼下がり、小上がりの座布団に腰掛けた客がラーメンをすすっていた。1杯350円。居酒屋が先月始めた赤字覚悟のランチメニューだ。



 北海道最大の歓楽街ススキノ地区(札幌市)中心部に店を構える「北海道海鮮にほんいち」。運営会社社長の原田一利さん(54)は「こんな時だからこそお客さんを喜ばせたい」と語るが、1年前まで経営が軌道に乗っていただけに複雑な思いがにじむ。

 1996年ごろ、ススキノで飲食店経営を始めた原田さん。当時30歳。北海道ならではの上質な料理を安く提供することにこだわった。浮き沈みが激しい業界の中で市内に3店舗を築き上げ、道外にも進出するなど着実に成長を遂げていた。

 しかし、新型コロナウイルスの感染拡大で経営は一変。2020年2月、道は独自の緊急事態宣言を出し、道民に外出自粛を要請した。

 その影響で、売り上げは例年の1割以下に落ち込んだ。「すすきの店」の家賃は管理費などを含めると約200万円。「払えるだけの売り上げはなかった」。3月にはススキノで初めてクラスター(感染者集団)が起きるなど、その後も厳しい状況が続く。

 12月、売り上げはたったの約80万円。1日最高150万円以上を稼いだ「コロナ前」と比べると話にならない。原口さんは「まさか1年も続くとは」と嘆く。この1年間でJR札幌駅北口近くの店舗を閉め、道外の一部系列店も閉店に追い込まれた。居酒屋などで飲食を楽しんでいた人々の行動はこの1年で確実に変わったのだ。

 道の家計調査によると、1世帯(2人以上)が1カ月間に外食に使うお金は20年1月時点で平均約9800円。政府が初めて緊急事態宣言を出した4月は約4500円とほぼ半減した。

 感染状況が落ち着きを見せた夏場は回復傾向で9月には前年の9割程度まで持ち直したが、道内の日別感染者が最高304人に達するなど感染者が急増した10、11月は7割台に落ち込んだ。

 外食産業の業界団体「日本フードサービス協会」(東京都)の石井滋常務理事は「このままでは日本の食文化の中枢を担ってきた外食産業が立ち行かなくなる。政府や自治体の切れ目ない支援が必要だ」と訴える。

 「ここでランチをやっても、それほど客が入らないことは分かっている」。数組の客が入った店内で、原田さんはこうつぶやいた。では、なぜランチを始めたのか。「前に進まなければお客さんに元気を届けられない」【土谷純一、真貝恒平】

最終更新日:2/7(日)11:39 毎日新聞

引用:https://news.yahoo.co.jp/pickup/6384415

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