新型コロナウイルス感染拡大が続く中、バレンタインデー(2月14日)で百貨店やチョコレート業界が苦戦を強いられている。なかでも近年、職場などでの贈答が下火傾向にあった「義理チョコ」は、在宅勤務の拡大の影響などで絶滅の危機に。店側も需要を掘り起こそうと躍起だ。
「前年比で売り上げ2割減は覚悟している。特に、義理チョコ需要が厳しい」。商戦が本格化した1月下旬、福岡市の百貨店で担当者がため息をついた。同店では緊急事態宣言中のため客足が落ちているほか、催事場の出店数も減らした。
もともと女性から男性への贈り物として国内で定着したバレンタイン。職場などでの義理チョコも以前は2月の風物詩だったが、女性と返礼する男性の双方に負担となるケースもあり、贈答をやめる動きが加速。2018年には「義理チョコをやめよう」と訴えるチョコブランドの新聞広告が話題になった。インターネット調査会社「マイボイスコム」(東京)のアンケート結果でも、バレンタインデーで「プレゼントをしたか、もらった」と答えた人の割合は、10年は56・8%だったが、20年には44・8%に落ち込んだ。
今年は当日が日曜のうえ、コロナ感染防止で在宅勤務が進み、食べ物の共有を制限する企業もある。そのため、「取引先や仲の良い上司に個人的に渡していたが、今年はやめる」(食品会社)、「女性社員同士で交換していたが実は面倒だった。今年は必要なくて助かる」(事務職)との声が出ている。日本記念日協会(長野県佐久市)は今年のバレンタインの市場規模を前年比約20%減と推計。「義理チョコはほぼ消滅か」と予測する。
こうした厳しい状況に、店やメーカーも工夫して消費者にアピールしようとしている。大丸福岡天神店(福岡市)は、チロルチョコの包装紙に高校や大学などの校名を印刷した「DECO(デコ)チョコ」(79円)を58校分用意。「受験生や卒業生に売れる」(担当者)と期待する。ボルトやナットをかたどった「ネジチョコ」を販売する北九州市の菓子会社は、ネット通販で無料のメッセージカードをつけるサービスを開始。「ネット注文は好調。コロナで会えない人に贈るのだろう」(担当者)と手応えを感じている。
近年の商戦では、義理チョコが減る一方、普段は手に入らない輸入チョコなどを自分用に買う人が増え、百貨店などはカカオ産地にこだわったチョコや限定品の品ぞろえを競ってきた。催事場では試食で客を呼び込み、食べ比べしたうえで数万円分のチョコを買う客も珍しくなかったが、それもコロナで一変。感染防止のため試食提供ができないことも逆風になっている。
岩田屋本店(福岡市)の催事に出店していたチョコブランドは「試食してもらえないのは痛いが、チョコ作りのこだわりや味の特徴をわかりやすく伝えている」と説明。大丸福岡天神店は、あんを使った菓子店約30店と共同で「チョコ展×あんこ展」を開催し、「チョコだけにこだわらず、自分用に人気の菓子を合わせた」(担当者)といい、商戦盛り上げに躍起になっている。【久野洋】
◇今年は市場規模縮小の見込み
国内のバレンタインデーは1930年代、神戸市の洋菓子会社「モロゾフ」が「愛の贈り物」としてチョコレートを売り出したのが発祥とされている。50年代後半~60年代、洋菓子店や菓子会社が続々とバレンタイン商戦に参入し、次第に定着した。
70年代以降は女性の社会進出とともに職場での義理チョコも一般的になったとみられる。2000年以降は義理チョコ離れが進む一方で、友達同士で交換する「友チョコ」や、自らのご褒美として購入する「自分チョコ」などの言葉も登場した。
日本人のチョコレート消費は伸び続けており、全日本菓子協会の統計では、小売金額で14年に和生菓子を抜いて首位に。輸入物など高額品人気も続いている。業界側も、ピンク色で見た目が美しい「ルビーチョコ」や、職人がカカオから一貫生産する「ビーン・トゥ・バー」などの流行を生み出し、商戦を盛り上げてきた。
日本記念日協会の推計では、近年のバレンタインデーの市場規模は1200億~1300億円台で推移してきたが、21年は新型コロナウイルスの感染拡大の影響で1050億円にとどまると予想している。
最終更新日:2/5(金)19:52 毎日新聞