中国の習近平国家主席が2013年秋に巨大経済圏構想「一帯一路」を打ち出してから10年。その間、道路や鉄道、港湾など巨大インフラ投資で沿線国への影響力を拡大した一方、過剰な貸し付けで途上国を借金漬けにする「債務のわな」との批判も高まった。習氏は最近、経済協力プロジェクトについて「小さくて美しい」事業優先と号令をかけ「量から質」への転換を図る。中国と欧州を結ぶ貨物鉄道「中欧班列」もそうした現場の一つだ。
中国内陸部の政府直轄都市、重慶市。中心部から北西に車で20キロほど走ると、出入り口が厳格に警備された巨大な鉄道貨物ターミナル「団結村駅」が姿を現した。その一角にある税関検査場では、ナンバープレートの付いていない数百台の新車がずらりと並び、重量検査などを経て、貨物列車に積み込まれる。記者が車種を確認すると、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)が自動運転技術を提供する地元新興メーカー賽力斯(セレス)の電気自動車(EV)が目についた。
世界最大の人口3200万人を抱える重慶は長江上流に面し、古くから水運の町として知られてきたが、習氏が「一帯一路」を提唱すると、欧州と東南アジアを結ぶ貨物鉄道の要衝として急速に存在感を高めた。ドイツなど欧州への直行列車は、かつてはパソコンなど中国内欧米メーカー工場からの製品輸出が目立ったが、現在は国内メーカー製品に置き換わりつつある。
検査場運営会社の韓超・副総経理は「これまで自動車の輸出はほとんどなかったが、今年上半期だけで3・6万台と予想を超えて急増した。このうち6割以上が(EVなど)新エネルギー車だ」と胸を張った。
重慶は上海市、吉林省に続く中国国内3位の自動車生産地域で、国内外の自動車メーカーが集積するが、中国勢が注力するのはやはりEVだ。中国自動車大手の長安汽車の研究開発センターを訪れると、展示されていたのはEV技術が中心。ファーウェイと車載用電池世界最大手の寧徳時代新能源科技(CATL)と共同開発し昨夏発売した「アバター011」は、60万元(約1200万円)と高額だが、走行距離は680キロと高い性能を誇る。海外事業を担当する黄晶氏は「来年にはドイツやオランダ、ノルウェーに輸出する計画で、現地工場の建設も検討している」と意欲を示した。
米テスラと世界首位の座を争う中国自動車最大手の比亜迪(BYD)が18年に最初の自社開発のリチウムイオン電池工場を建設したのも重慶だ。総額180億元を投じた工場の生産ラインは「企業秘密だ」と撮影は禁じられたが、ガラス越しで見学するだけでも、自動化がほぼ完成しており、コスト削減につなげている様子がうかがえた。
BYDは欧州や東南アジアに輸出攻勢をかけるが、22年に進出したタイでは今年に入り、早くもEVシェア3割を握って首位を走る。世界全体でも中国の自動車輸出は23年上半期、初めて日本を抜き世界首位となった。
国際経済を専門とする北京の大学教授は「EVが(「一帯一路」沿線国への)新たな名刺代わりになっている」と述べ、先端技術を使い、環境を重視する「質の高い中国経済」への転換をEVが印象づけているとの見方を示した。
中国政府は17~18日、一帯一路10年を記念し、130カ国以上の代表団が参加する国際会議を北京で開催する。ここでも「量から質」への転換をアピールする見通しだ。【重慶で小倉祥徳】
最終更新日:10/16(月)8:50 毎日新聞