ビールの酒税が下がる10月の酒税法改正は、ビール消費拡大の追い風になると期待される。だが、新型コロナウイルス禍で飲酒機会は減り、飲めるけれどあえてお酒を飲まない生き方「ソバーキュリアス」が若者を中心に浸透する。少子高齢化による国内飲酒人口の減少は不可避で、ビール業界は恒常的な逆風にさらされる。この課題にどう対応していくのか。大手ビール4社の戦略は-。
◆アサヒ
消費者のビール離れ対策として、4社ともに重視するのは「多様性への対応」と「ビール体験機会の創出」だ。ただ、共通見解を持ちながらも対策手法は4者4様で、これまで業界にはびこっていた横並び意識からの脱却が垣間見える。
「味は向上しているのに市場は右肩下がり。おいしいお酒を作れば売れる世界ではない」。そう指摘するのはアサヒビールの松山一雄社長。「おいしいビールを作る会社から、おいしいビールのあるいい人生をつくる会社」へ改革を急ぐという。
向き合ったのは、調査で判明した国内に約4千万人いる飲酒習慣がない人だ。お酒を飲む人も飲まない人も楽しめる生活を創造する「スマートドリンキング(スマドリ)」を、「文化として広めることが野心的な目標」と強調する。
昨年6月には若者が集まる東京・渋谷に、アルコール度数を選んで飲める「スマドリバー」をオープン。缶の蓋を開けると泡がわき出す斬新さで大ヒットした「スーパードライ」の「生ジョッキ缶」など、新商品の積極的な投入による需要創出にも力を入れる。
◆サントリー
新しい飲み方の提案を広げる戦略は、サントリービールも同じだ。「これまでのビールの常識を全部とっぱらって、ゼロベースで考える」。そう話す西田英一郎社長が進めたのが〝画一的なビールからの脱却〟だ。そのテーマに挑戦する組織として令和3年に「イノベーション部」を新設した。
同部署が開発した第1弾の新商品が、ビールを炭酸水で割って飲む「ビアボール」だ。消費拡大を目指しながら、ビールを薄めて飲む商品設計は社内から批判もあったが、その自由な飲み方が若者を中心に支持されヒット。正攻法では通用しない市場に対し、「場合によっては、ビール業界では禁じ手といわれることもやらないといけない」と覚悟を新たにする。
今年4月にはスーパードライなどの競合商品に比べ安い「サントリー生ビール」を市場投入。〝価格差〟を訴求した商品戦略にも覚悟の一端がみえる。
◆キリン
多様性の提案で他社と趣を異にするのがキリンビールだ。堀口英樹社長は、素材や製法など個性を追求した「クラフトビール」を「色々な味、デザイン、原料を楽しんでもらえる多様性の象徴」と表現し、「成長の柱」と位置付ける。
クラフトビールの自社ブランド「スプリングバレー」の拡販だけでなく、競争相手となりえる地方のクラフトビール醸造所に資本や技術面で支援する。
約30年前に起きたクラフトビールブームは、醸造所の急増で低品質品があふれ、間もなく終焉(しゅうえん)。その反省を踏まえ、キリンの支援を通し業界全体の品質を底上げさせることで、ブーム再燃を狙う。「色々な醸造所と一緒になり、市場を活性化させることで好循環が生まれる」と見通す。
◆サッポロ
新機軸で多様性を発揮する3社に対し、サッポロビールは定番ブランドの追求という逆張り戦略で対抗する。野瀬裕之社長は「幅広い提案をしていくよりは、ビールの魅力を上げていくことに主眼を置きたい」とし、既存ブランドの品質強化や新たな味わい体験の場の提供に力を入れる。
日本のプレミアムビールの原点「エビス」、定番の「黒ラベル」、現存する日本最古ブランドで〝赤星〟の愛称で親しまれる「ラガービール」、北海道限定の「クラシック」。すでに多様なブランドを持っており、「既存のポートフォリオ(資産の組み合わせ)で十分戦える」との認識だ。
令和元年には、注ぎ方にこだわった黒ラベルのみを提供するバーを東京・銀座に開店。「立ち位置がクリアであるほど、競争関係でプラスになる」とみる。(西村利也)
最終更新日:9/29(金)22:12 産経新聞