年明け間もなく、11都府県に発令された2回目の緊急事態宣言。これを受けて、当該都府県にある飲食店には、一律20時までの時短営業が要請されているが、その裏で現在、物流を支えるトラックドライバーが夜に「食堂難民」と化している実態がある。高速道路のサービスエリア・パーキングエリア(以下、SAPA)の飲食店もが時短営業をしているからだ。24時間、道路の上で過ごす現場のトラックドライバーからは、「開けてほしい」の声。そんな中、こうした彼らの訴えに対する赤羽一嘉国土交通大臣の発言が物議を醸している。長距離を走るトラックドライバーからは、緊急事態宣言発令直後から「SAPAの飲食店が20時で閉まっていて食事が取れない」という声が上がり始めていた。その声が大きくなり始めると、先月19日の記者会見で、赤羽大臣はこのように発言したのだ。「物流を支える長距離トラックのドライバーが高速道路を利用する際に、食べ物を購入したりシャワーを浴びられたりする場所を提供することは大切だが、要請を受けて営業時間を午後8時までに短縮している飲食店があるのが現実だ」「高速道路会社に対しては、午後8時以降も食べ物を購入できるコンビニなどの地点や営業時間を取りまとめて、情報を広く公開するよう要請した。全日本トラック協会などを通じて、ドライバーの皆様へ広く情報提供できるようにしていきたい」NHKニュース:実際、全日本トラック協会やNEXCOのサイトには、現在、各飲食店の営業時間が事細かに案内されている。NEXCO中日本:(他高速道路の情報はリンク内にあり)しかし、現場のトラックドライバーからは、「違う、そういうことではない」「何もわかっていない」といった怒りや呆れの声が上がっているのだ。このSAPAの飲食店時短問題については、これまでにも各媒体へ寄稿している。ハーバー・ビジネス・オンライン(1月18日)「」プレジデントオンライン(1月29日)「」その中で、この問題を知った読者からは「SAPAは時短営業の対象外だと思っていた」「どうしてエッセンシャルワーカーの邪魔をするんだ」「夜寒い中頑張るトラックドライバーに温かい食事を食べさせてあげて」「議員が会食で飲み食いしている酒や食事もトラックドライバーが運んでいる」といったコメントが多く寄せられた。が、その一方、一部には赤羽大臣のように「コンビニがある」という声のほか、「そのSAPAの飲食店が開いていなければ、他のサービスエリアに移動すればいい」、さらには「予め買っておけばいいじゃないか」という意見も散見された。社会インフラを支えるべく昼夜問わず走るトラックドライバーだが、彼らにとって時短営業で飲食店が閉まる「20時以降」こそ、SAPAを利用する“ゴールデンタイム”だ。荷主のほとんどが指定してくる「朝イチ(午前8時ごろ)」に向けて走っていることに加え、0時から適用される高速道路料金の「深夜割」の存在や、4時間ごとに30分の休憩義務、翌日業務までの8時間以上の休息義務という労基法上のルールもあるからだ。先日、関東のSAPA数か所を回ってみると、やはり夕方から20時まではトラックの姿は少なく、閉店前の飲食店はむしろ一般客で混雑していた。その後、20時を過ぎたころの海老名SA(東名高速道路上り)には、24時間営業だったフードコートがある2階部分に上がるも、閉まったシャッター前を一周し、そそくさと下階へ降りていくトラックドライバーの姿が散見された。山口県から千葉県へ向かう男性トラックドライバーに話を聞いたところ、「SAPA飲食店の時短営業は知っていたが、確認しに上がってみた。緊急事態宣言以降、SAPAではずっと冷たいご飯やコンビニ飯が続いている」とのことだった。東京料金所手前にある港北PA(東名高速道路上り)は、全国の中でも最も混み合うSAPAの1つだが、現在食堂は20時で閉店。元々この食堂は21時で閉まるが、併設されている24時間営業のコンビニもが0時で閉まるという。午後10時半ごろに入った同コンビニの店頭には、品薄になったサンドイッチやおにぎり、即席めんが隙間を作っているだけで、弁当なども置いてはいなかった。さらに、入ったSAPAの食堂やコンビニが閉まっていたとしても、トラックドライバーには夜中にたやすく他のSAPAに向かえない2つの事情がある。先述通り、彼らトラックドライバーには翌日の業務まで、8時間以上休息を取らねばならいという規則があるのだが、これはつまり「トラックを動かしてはいけない」ことを意味するのだ。また、20時以降のSAPAは、同じようなスケジュールで走るトラックドライバー同士で「駐車マスの争奪戦」が起きるほど混み合う。たとえ他のSAPAへ移動したとしても、そこでクルマを停められる保証は一切ないのである。これらのことから実際、飲食店もコンビニも閉まっていたのに他のSAPAへの移動もできず、「夕飯どころか朝食すら取れなかった」というドライバーもでてきているのだ。トラックドライバーが緊急事態宣言のあおりを受けたのは、今回だけではない。昨年4月に出された緊急事態宣言の際も、彼らには「シャワールーム」が奪われた経験がある。世間にはあまり知られていないが、各大手ガソリンスタンドの店舗には、長距離トラックドライバー向けにシャワールームが厚意によって無料で提供されており、トラックドライバーたちとっては、汗を流せる憩いの場となっている。が、昨年の緊急事態宣言を受けて、そのシャワールームが突然閉鎖されたのだ。元々、終日1人で行動するトラックドライバーの感染リスクは、他業種に比べてかなり低い。が、全国を走り回る彼らには、当時「コロナ運ぶな」という辛辣な言葉が投げかけられたり、無言で除菌スプレーを吹きかけられたりする事例が度々発生しており、筆者の元にも、「自分がトラックドライバーだからという理由で妻が勤務期から無期限の出社禁止命令が出た」という相談があるほど、トラックドライバーに対する偏見や差別が横行していた。そんな中、シャワーが使えず身を清潔に保てなければ、彼ら自身の感染リスクが上がるだけでなく、偏見や差別がより強まる懸念も考えられた。こうした現場の思いが通じたのだろう。そのシャワールーム使用禁止は1週間で解除。その間、トラックドライバーにどう過ごしていたかを聞いたところ、「公園で体を洗った」、「コンビニのカップめんのお湯を拝借して、タオルに含ませ拭いた」、「トイレの消臭剤を自分の体に振り掛けた」、「ガソリンスタンドの洗車機の水で体を洗った」という壮絶な経験報告が次々と舞い込んだのだ。過去記事:時に1週間以上も家に帰れず車中泊を繰り返すトラックドライバーにとって、「食事」は長時間かつ肉体労働の合間に取れる唯一ホッとできる時間だ。時短営業前のSAPAの飲食店には、元々誰に言われるでもなく、ひとりそばうどんを背中丸めてすすり、“黙食”をしていた彼らトラックドライバーの姿があった。が、現場の状況を知らない人間たちによって作られた杓子定規なのルールによって、現在はその”黙食”すらできないでいる。数日ならばまだしも、この緊急事態宣言はすでに3週間以上が経過。さらに宣言が延長されれば、「コンビニ飯」はさらに続くことになる。そんな彼らに対し、「予め夕食を買っておけばいい」「コンビニがあるじゃないか」という声は、あまりにも無情すぎはしないだろうか。「コンビニの場所を案内」とした赤羽大臣だが、コンビニがどこにあるのかは、視察にすら来ない「上」よりも、毎日現場にいるドライバーのほうがよく知っている。彼らが国交相の発言に対して「違う、そういうことではない」とするのは、「温かい食べ物が食べられない」ことはもちろん、コロナ禍においても、エッセンシャルワーカーとして日本の物流を支えている中で、食事の場をよりによって国に奪われたこと。そして、この長い緊急事態宣言下での食事案に、国交相が「コンビニ飯」しか示せないことに対する反応なのだ。トラックドライバーにとって毎夕食がコンビニ飯や冷えた軽食になるのは、健康面ではもちろん、精神的にも言葉にならない「やるせなさ」を覚えるのだ。テナントの営業利益の兼ね合いで時短営業をしている事情があるならば、それこそ国が補助すべきで、店の営業を後押しこそすれ、物流の担い手が利用するSAPAの飲食店を閉めさせることがあってはならない。夜の日本を支えているのは、無論トラックドライバー以外にも大勢存在する。コロナが夜に活発化する特性があるならばともかく、20時で飲食店に一律の時短を強いる意味は、一体どこにあるのだろうか。目に見える世界だけが現実ではない。世の中が9時‐17時だけの労働だけで回っていると思ったら大間違いなのである。※ブルーカラーの皆様へ現在、お話を聞かせてくださる方、現場取材をさせてくださる方を随時募集しています。個人・企業問いません。世間に届けたい現場の声などありましたら、TwitterのDMまたはcontact@aikihashimoto.comまでご連絡ください。
最終更新日:2/1(月) 8:00 橋本愛喜