夏休みに帰省し、故郷の味に舌鼓を打った人も多いだろう。近頃は、地元の人の嗜好(しこう)や特性に寄り添って開発された地域限定の食品、飲料の発売が相次いでいる。全国展開の商品とは一線を画す味わいが、〝私たちの味〟と受け入れられ、売れ行きも上々だ。
■九州好みの「甘み」
ラベルに九州の地図がデザインされたキユーピーの「九州を味わうドレッシング」。九州地方限定で「ゆず」「たまねぎ」が発売され、今月、第3弾として「ゆず香るごま」が新たにラインアップに加わった。
商品名だけ見れば、どこにでもある既存のドレッシングに、似た風味がありそうだが…。
「特筆すべきは、その『甘み』。九州ならではの味の嗜好性を色濃く反映しているのが特長です」と、同社調味料部ドレッシングチームの廣田裕樹さんが説明する。
確かに九州といえば、しょうゆ、みそも味は甘め。地元の人を対象に行った調査では、「和風だしが利いた味」「うまみのある味」「甘い味」が好まれる傾向にあるのが分かった。さらに、しょうゆ味の和風ドレッシングの使用率が他の地域と比べて高かった。
味の嗜好性がくっきりと見えた。目指すはコクと甘みのある味わいだ。九州で仕込んだ濃口しょうゆをベースにし、試行錯誤を重ねた。「試作品を福岡支店のメンバーに食べ比べてもらい、味作りを進めました。甘み、うまみにも地域ごとの違いがあると気づきました」と廣田さん。
第3弾の「ゆず香るごま」のベースとなる「ごまドレ」は、全国的にも人気が高い。九州向けでは、濃口しょうゆのまろやかな甘みに、ユズ果汁の爽やかな風味をアクセントに加えた。かんきつ系の味わいが好まれるのも九州ならではの傾向なのだとか。
廣田さんいわく、「全国展開する商品にはできない『とがった味』が出せるのが地域限定品の強みだと思います」。
■地場の喫茶店を研究
大手メーカーによる地域限定風味の商品は、飲料にも広がっている。
アサヒビールは今年、地域限定の缶チューハイ4ブランドを順次発売した。
甘くない味わいが好まれる東北地方では、無糖のかんきつサワー「GINON(ジノン)」を。レモンピール(果皮)、レモングラスなどを漬け込んだジンをベースにした辛口で、特にビール好きな人から支持を集め、ファンを増やしているという。
中国・四国地方限定の「まろハイ レモンチューハイ」は、みりんの消費量が多い地域性から隠し味にみりんを使用。角が取れたまろやかな味わいにした。
コーヒーでは、味の素AGFが「ちょっと贅沢(ぜいたく)な珈琲店」ブランドで、北海道から九州まで8地域ごとに好みの風味にブレンドしたレギュラーコーヒーなどを販売している。
地場の喫茶店へ足を運んだり、他地域では売られていない人気コーヒーを調べたりして、好まれる味わいをとことん追求した。「インスタントとレギュラーのどちらを好むか、ミルクや砂糖を入れるか、といった従来の地域別データでは細かい味わいのニーズまでは見えにくかった」と、広報担当の斉藤涼(さやか)さん。
北海道では深煎りのコクのある重厚な味、北陸信越では香り高い、すっきりと澄んだ味、といった好みの傾向が明らかに。数種類の豆をブレンドし、各地域の営業社員の声を生かしながら、味を作り上げた。
「お客さまには『自分たちのために作られたコーヒー』と受け止められ、とても好評です」と斉藤さん。
地域ならではの味わいを追求した商品は、今後も注目を集めそうだ。(榊聡美)
最終更新日:8/27(日)14:38 産経新聞