飲食店などに予約した日に現れず無断キャンセルする「No Show(ノーショー)」に備えるサービスが充実してきた。新型コロナウイルスの感染症法上の分類が「第5類」に移行したことで、大人数での宴会需要も高まる中、ノーショーも増えると懸念されているためだ。用意した食材が無駄になるだけでなく、別の客の利用機会も妨げるノーショー。深刻な人手不足に加え、食材やエネルギー価格の高騰にあえぐ今の飲食業界には致命傷となりかねず、対策が急務となっている。
「宴会が戻ってきたのはうれしいが最近、またドタキャンが増えている。食材だけでなく、配置した従業員も無駄になる」。大阪や京都で居酒屋を運営する会社の社員はため息をつく。コロナ禍でもテイクアウトの注文品を受け取りに現れない客はいたが、大人数の予約ともなると被害は甚大だ。予約客に電話してもなかなかつかまらず、現場の負担が増すことにも頭を悩ませている。
日本フードサービス協会(東京)が全国3万6500店舗を対象に調査した今年6月の「外食産業市場動向」では、外食産業の6月度売り上げ状況は、前年同月比11・8%増となり、パブ・居酒屋やディナーレストランの業態で宴会が回復基調に乗った。一方、これを境にノーショーも増えている。「予約したこと自体を忘れていたという人は一定数いる。ただ、当日何らかで都合が悪くなっても面倒に感じて連絡しない人や、いたずら目的なのか何度も繰り返す悪質なケースもある」(業界関係者)という。
コロナ禍前のデータだが、飲食店予約サービス業のトレタ(東京)による平成30年の推計では飲食店予約に占めるキャンセルの割合は約10%で、ノーショーは約1%。一見少ないようだが、経済産業省の同年調査では飲食業界で生じるノーショーの損失額が年間2千億円に上り、前日と2日前の予約キャンセルを合わせると被害額は約1・6兆円と試算していた。
こうした中、無断キャンセル対策のサービスが広がりをみせている。リクルートは令和4年11月、予約時に客が情報を登録したクレジットカードで決済できる仕組みを予約サイト「ホットペッパーグルメ」に導入。キャンセル料もカード決済できるため「めんどくさい」などの理由で無断キャンセルする人の抑止につながるとして期待されている。同社ではこのほか、店側の報告などに基づき、無断キャンセルした客に対してサイトの利用停止や損害賠償請求などを講じることができる規約事項も設けている。
一方、予約サイト「ぐるなび」では一定の条件を満たした加盟店に対し、追加料金を店側が負担することなく無断キャンセルで被った被害額の一部が補塡(ほてん)される保険サービスを用意している。6月にはトレタもキャンセル料の請求や回収業務を自動化するツールの提供を飲食店向けに始めた。店側が無断キャンセルした客の氏名や電話番号、請求金額などを入力すると、支払方法などを記したメールなどが客に自動送信され、その後の督促も行う仕組みだ。
飲食業界はコロナ禍による深刻な人手不足や夜間消費の回復遅れで、店の回転率を上げるのが難しい現状だ。トレタの担当者は「同じノーショーでも受けるダメージはコロナ禍前より大きい」と指摘し、対策の必要性を強調している。(田村慶子)
最終更新日:8/21(月)16:43 産経新聞