電動キックボードを「自転車並み」とし、運転免許なしでも運転可能とする新たな交通ルールが7月1日に始まり、街中でみかける機会が増えてきた。公共交通機関を補う短距離の移動手段として、ビジネスや観光などでの利用拡大に期待が集まる。一方、自動車損害賠償責任保険(自賠責保険)の加入が義務だが、知らずに無保険で使うケースも懸念される。利用拡大で事故が増える中、関係者は注意を呼び掛けている。
「電動キックボードで自賠責保険に加入したいという問い合わせが来ることはほとんどない」
損害保険業界の関係者はこう明かす。電動キックボードは基本的に販売店で自賠責保険に加入できるが、一部の店では入れないところもある。その場合、インターネットなどで自分で契約する必要があるが、購入者が加入義務を知らずに使ってしまうことも考えられるという。
シェアリングやレンタルでは原則として利用料に保険料が含まれている。しかし個人で購入し、無保険で事故を起こすと、けがの程度によっては高額の対人賠償金を自己負担しなければいけない可能性がある。
別の業界関係者は「自動車は自賠責保険に入らないと引き渡しがされないが、電動キックボードはそうではない。今のオペレーションでは義務だと気づかない人も少なからず出てくるだろう」と警鐘を鳴らす。
自賠責保険に加えて、任意の自動車保険への加入が重要だとの指摘もある。来店型保険ショップ「保険クリニック」を運営するアイリックコーポレーションの担当者は「自賠責保険は相手方への補償のみで補償限度額も大きくない。ネット保険はリーズナブルでおすすめだ」と話す。
7月1日に施行された改正道路交通法では、電動キックボードは16歳以上であれば運転免許がなくても乗ることができるようになった。利用者の急拡大が見込まれるが、それと同時に事故が急増するとの懸念も広がっている。警察庁によると、電動キックボードによる交通事故は令和2年は4件だったが、3年には29件、4年は41件と普及に伴い増加している。保険による備えは欠かせず、周知の強化が求められる。
一方で、損保会社の中には事故を減らそうという取り組みも出てきた。あいおいニッセイ同和損害保険は走行場所によって速度を自動的に制御する技術の開発に着手。保険金支払いを抑えることにもつながるとみられ、来年度にシェアリングサービスで実装することを目指している。
担当者は「交通事故の削減に貢献し、新たなモビリティーの普及を後押ししたい」と話している。(中村智隆)
最終更新日:7/24(月)9:41 産経新聞