物価高騰が続く中、生活を直撃する水道料金の値上げも相次いでいる。各地の水道事業者が経営危機に直面しているからだ。人口減少の影響で料金収入が減少する一方、老朽化した設備更新費が膨らみ経営を圧迫。しかも送水などに必要な電気代の高騰も追い打ちをかける「三重苦」に見舞われ、給水人口の少ない事業者ほど危機は深刻で手詰まり感が漂う。
■「想像以上に厳しい」
北上川を主な水源とし、宮城県の石巻、東松島両市に給水する石巻地方広域水道企業団は4月、29年ぶりに水道料金の値上げに踏み切った。値上げ幅は平均20%。一般家庭(水道管の口径20ミリ、水20立方メートル使用)で月5093円と改定前よりも869円アップした。
人口減少を背景に料金収入(令和5年時点で44億円)が減少する中、老朽化施設の更新に毎年約32億円が必要と見込まれ、財源不足を補うために値上げは避けられないと判断した。
日本水道協会によると、水道料金の改定は令和3年から1年間で横浜市や松本市(長野県)など65事業者に上る。その後も各地の事業者が追随し、神奈川県の県営水道は6月、今後30年間で1兆円規模の設備更新費が必要になるなどとして、来秋にも料金を値上げする方針を表明した。
浜松市も約15年間据え置いていた料金の値上げを検討している。鈴木康友市長(当時)は3月の記者会見で、最近の電気料金の高騰に伴い、配水池へのポンプアップなどの動力費が7割前後も増える試算を念頭に、「事業やサービスの安定的な継続のためには、現在の料金水準では困難」と理解を求めた。値上げ時期などは「白紙だが、電気代がかさみ、想定以上に厳しい」(担当者)と危機感を募らせる。
一方、北海道北見市は今年度の水道料金値上げを見送った。昨年、料金改定の是非を審議していた市上下水道審議会(市長の諮問機関)がこれまでの段階的な値上げに加え、最近の物価高騰を理由に「見送らざるを得ない」と答申したからだ。値上げに「待った」がかかったとはいえ、現行水準のままでは水道事業の収支改善は見込めず、市は来年度以降に再び料金値上げを検討する方針だ。
■時間帯で料金割引
設備更新費や水道料金の値上げ幅の抑制につなげるため、6月から全国初の実証実験を一部地域で始めたのは静岡県湖西市。時間別の水道使用量を計測できるスマートメーターを活用し、時間帯によって料金を割り引く。
市によると、現在は一般家庭で1立方メートル当たり137・5円の従量料金について、10月までの実験期間中は深夜(午前0時~6時)6割引、昼間(午前10時~午後5時)2割引とした。
水道管のサイズ(口径)は基本的に使用量のピーク時に合わせて整備しているが、水道水がどの時間帯に最も使われているかを検証する。水道管の設備能力に余剰部分があれば、サイズを小さくするなど「需要に合わせた設備更新費の縮減が狙い」(市水道課)。市は時間帯別料金の導入など今後の料金体系に反映する方針で、少しでも料金を抑えようと、各事業者は苦心している。
水道料金は全国一律ではなく、地域差がある。一般家庭で1カ月に20立方メートル使用した場合、最も高い北海道夕張市と最も安い兵庫県赤穂市で8倍も違う。背景には人口密度や給水エリアの広さなど複数の地域事情がある。
単純にいえば、配水池から遠い過疎地に水道管を整備しても、料金収入が少なく採算が合わない。一方、マンションが乱立するなど都市部の人口密集地は利用者が多く収支が維持できる。水道事業の基本は独立採算制。上下水道の利用者からの収入で賄うよう法律で規定されているが、不足分は借金にあたる企業債などでしのいでいる。
水道事業に詳しい近畿大経営学部の浦上拓也教授(公益事業論)は「独立採算制である以上、窮余の策として値上げで収入を確保せざるを得ない。特に小規模な自治体は職員を削減し、水道事業に関する技術の継承もままならない。八方ふさがりの状況に直面している」と強調する。(岡田浩明)
最終更新日:7/22(土)16:54 産経新聞