「ポケモンカード」の高騰が止まらない。対戦やコレクションが楽しめるトレーディングカードゲーム(TCG)市場が拡大を続ける中、転売や投機的売買の過熱で「レア」とされるカードが数百万円の値で取引されることも珍しくない。カードを巡る詐欺や窃盗事件、フリマサイトでのトラブルも相次ぐ。事態解決のカギは「受注生産」にあると専門家は指摘する。
「『アセロラ』を10万円で販売します。気になる方はDM(ダイレクトメッセージ)ください」。令和3年12月、東京都に住むコレクターの30代男性はツイッター上でこんな投稿を見かけた。ポケモンに登場する人気キャラクターのアセロラのレアカードを、市場よりも安い価格で販売するとの内容。興味を持った男性はDMで商談を進め、指示されるまま投稿者の口座に現金10万円を振り込んだ。
その後、男性のもとに届いたのは説明と全く異なる数枚のノーマルカード。その価値はわずか計約1400円だった。
京都府警山科署は今年4月、詐欺容疑で投稿者の男(24)を逮捕。山科署によると、男は市場より安い価格を提示して現金を振り込ませ、実際にはカードを送らなかったり、約束とは違う安価なカードを送りつけたりする手口で犯行を重ねていた。「お金のためにやった」と容疑を認め、同様の犯行を40件近く行ったと供述しているという。
◆人気過熱、ネット購入にリスク
ポケモンカードを巡っては東京や岡山などでも窃盗事件が発生。一部はいわゆる「闇バイト」が絡んだ犯行との見方もある。
こうした犯罪の背景にあるのが、近年のポケモンカード市場の過熱だ。サブカルチャー経済に詳しい京都橘大の牧和生准教授によると、令和2年に約39万人だったTCGの市場人口は4年に約45万人へと成長。さらに3年に約2万8千円だった1人当たりの年間消費額は4年には約7万2千円となり、3倍近くまで膨れ上がった。
取引に関するトラブルも頻発している。国民生活センターによると、全国の消費生活センターに寄せられたTCGに関する相談は令和2年から3年にかけて約1・5倍に増加。「購入したが届かない」「偽物だった」。その多くがSNSやフリマサイトでの取引を巡る苦情や相談だ。センターの担当者はカードのネット上での購入について「リスクがあることを念頭に、慎重に行ってほしい」と呼びかけている。
◆「確実に手に入る」で転売防げるか
もっともポケモンカードのような人気コンテンツでは、「価格高騰や転売が発生することは経済学的には必然的な現象」(牧准教授)。しかし子供たちをはじめとする、本来のファン層が商品を手に入れにくい状況は望ましくない。このため過度な高騰や転売に歯止めをかけようと新たな対策も進む。
カードを販売するポケモン(東京)が、人気が集中し入手困難となっていた一部商品について導入したのが「受注生産」だ。顧客側からの注文を受けてから製造を始める生産形態を意味し、牧准教授は「いつでも確実に手に入る」という安心感を消費者に与えられるメリットを指摘する。在庫を抱えないため、販売側の売れ残りリスクも心配ないという。
6月16日に発売された「ポケモンカード151」は店頭販売と並行し、受注生産でも販売。しかし販売から2週間たった現在、フリマサイトを確認すると、「151」は定価の数倍の価格で取引されていた。受注生産では1人1箱しか購入できないことなどが影響した可能性がある。
牧准教授は、商品を行きわたらせることで「自然に高騰や転売を落ち着かせることが最も効果的」と指摘。「欲しい人が欲しいタイミングで手に入れられる環境がコンテンツを長続きさせる」と述べ、市場で受注生産がどのような効果をもたらせるのかを注視すべきだとした。(荻野好古)
最終更新日:7/2(日)22:35 産経新聞